不動産投資を始めようと決めたとき、最初にぶつかる壁が「1棟目に何を買うか」です。物件情報サイトを開けば数え切れないほどの物件が並んでいて、どれが自分に合っているのか判断がつかない。営業担当者からは「この物件は今すぐ決めないと他の方に流れます」と急かされる。そんな状況で判断を誤り、その後何年も苦しむ方は実際に少なくありません。
1棟目が重要なのは、単に金額が大きいからではありません。1棟目の運用実績が、そのまま2棟目以降の融資評価につながるからです。ここでつまずくと、次に進む道そのものが閉ざされてしまいます。
この記事では、不動産投資の1棟目を選ぶときに見るべき条件と、判断を誤らないためのチェックの手順を、できるだけ具体的に整理します。
不動産投資の1棟目で、まず決めるべき3つのこと
物件を探し始める前に、自分の中で固めておくべき軸があります。ここが曖昧なまま物件情報を眺めても、判断基準がないので営業トークに流されるだけになります。
1.目的をキャッシュフローに置くのか、資産形成に置くのか
毎月の手残りを増やしたいのか、時間をかけて資産を積み上げたいのかで、選ぶべき物件はまったく変わります。手残り重視なら利回りの高い中古物件や地方物件が候補になりますが、その分だけ空室や修繕の手間は増えます。資産形成重視なら都市部の築浅物件が候補になりますが、月々の手残りはほとんど出ないケースもあります。
「両方欲しい」という気持ちは分かりますが、両方を同時に高い水準で満たす物件は、あったとしても市場に出る前に買われていきます。どちらを優先するかを先に決めることが、1棟目選びの出発点です。
2.自己資金をいくら投入できるのか
物件価格の他に、仲介手数料・登記費用・不動産取得税・火災保険料・融資事務手数料などがかかります。合計すると物件価格の7〜10%程度が目安になります。さらに、購入直後の修繕や空室に備えた予備資金も必要です。
自己資金をぎりぎりまで投入して手元をゼロにするのは、避けたい選択です。給湯器が壊れた、退去が出た、といった出来事は購入初年度から普通に起こります。
3.どこまでを自分で管理するのか
入居者募集・家賃回収・クレーム対応・退去立ち会いを自分でやるのか、管理会社に任せるのか。本業がある方の大半は管理会社に委託しますが、その場合は家賃の3〜5%程度の管理料が毎月かかります。この費用を収支計算に入れ忘れると、シミュレーションが実態からずれます。
管理料や予備資金も含めた収支は、手元で数字を並べて計算しておくとずれに気づきやすくなります。

区分マンションと一棟アパート、1棟目にはどちらが向くか
初めての方が最初に迷うのが、この選択です。それぞれの性質を整理します。
| 比較項目 | 区分マンション | 一棟アパート |
|---|---|---|
| 必要資金 | 数百万〜3,000万円程度 | 数千万円〜 |
| 空室時の影響 | 収入がゼロになる | 他の部屋で補える |
| 建物の意思決定 | 管理組合の合意が必要 | 自分で決められる |
| 土地の持ち分 | ごく小さい | まるごと自分のもの |
| 売却のしやすさ | 買い手が多く売りやすい | 買い手が限られる |
区分マンションは金額が小さく始めやすい一方で、1部屋が空いたら家賃収入がゼロになるという構造上の弱点があります。ローン返済は続くので、空室期間はまるごと持ち出しです。
一棟アパートは複数の部屋があるため空室の影響が分散されますが、借入額が大きく、金融機関の審査も厳しくなります。屋根や外壁といった大規模修繕の費用もすべて自分が負担します。
どちらが優れているという話ではなく、自己資金と借入余力、そしてリスクへの向き合い方で決まる話です。手元資金が限られている段階で無理に一棟へ挑むより、区分から始めて運用の実績を作るという進め方も現実的です。
1棟目におすすめしたい物件の条件
目的や資金は人それぞれですが、1棟目という前提で言えば、次の条件を満たす物件は失敗しにくい傾向があります。
・最寄り駅から徒歩10分圏内、またはバス便でも人口が維持されているエリア
・周辺に大学・大企業・病院など、賃貸需要を生む施設がある
・現在の入居率が高く、稼働の実績が見えている
・修繕履歴が残っていて、いつ何を直したか分かる
・売主が売却理由をきちんと説明できる
立地は「今の人口」ではなく「これからの人口」で見る
賃貸需要は人口に連動します。現時点で入居者が埋まっていても、そのエリアの人口が減り続けているなら、10年後に同じ家賃で貸せる保証はありません。
市区町村の人口推計は各自治体が公表していますし、住宅の総数や空き家の状況は総務省統計局の住宅・土地統計調査で確認できます。営業資料に載っている「将来性のあるエリア」という言葉を鵜呑みにせず、公的な数字を自分で見に行く習慣をつけたいところです。
価格が相場から外れていないかを確かめる
相場より高い物件を買ってしまうと、その瞬間に含み損を抱えることになります。国土交通省の不動産情報ライブラリでは、実際に成約した取引の価格を地域・時期・面積で絞り込んで調べられます。無料で使えるので、気になる物件が出てきたら必ず突き合わせてみてください。
利回りは「表面」ではなく「実質」で判断する
物件広告に載っている利回りは、ほぼすべてが表面利回りです。年間の想定家賃収入を物件価格で割っただけの数字で、経費も空室も税金も引かれていません。
実際に手元に残るお金を知るには、管理料・修繕積立・固定資産税・都市計画税・火災保険料・空室損を差し引いた実質利回りで計算する必要があります。表面利回り8%の物件が、実質では4%を下回るというのは珍しくありません。


収支シミュレーションで必ず入れておきたい項目
販売会社が用意するシミュレーションは、満室・修繕なし・金利据え置きという前提で組まれていることがあります。自分でも作り直すことをおすすめします。
入れ忘れがちな支出
- 空室損(想定家賃の5〜15%程度を見込む)
- 原状回復費と広告料(退去のたびに発生する)
- 給湯器・エアコンなどの設備交換費
- 固定資産税・都市計画税(毎年発生する)
- 確定申告にかかる手間と、税理士に頼む場合の費用
金利上昇を織り込んでおく
変動金利で借りる場合、金利は将来変わります。記事執筆時点では日本銀行が政策金利の引き上げを進めており、投資用ローンの金利水準も上昇傾向にあります。金融機関ごとの差も大きく、都市銀行、地方銀行、ノンバンクの順に高くなっていくのが一般的です。最新の適用金利は必ず借入先に直接確認してください。
現在の金利に1〜2%上乗せしても収支が回るかどうかを、購入前に必ず試算しておきましょう。ここが持ちこたえられない物件は、金利が動いた瞬間に赤字転落します。
物件を見に行くときに確認したいこと
資料だけで判断せず、現地に足を運ぶことは欠かせません。ただ、何を見ればいいか分からないまま行っても、「きれいな建物だな」で終わってしまいます。
建物そのもの
外壁のひび割れ、屋上や廊下の防水の状態、共用部の照明が切れていないか、ゴミ置き場が荒れていないか。管理の質は共用部に出ます。ここが乱れている物件は、入居者の満足度も下がりやすく、退去が増えます。
周辺環境
駅までの道を実際に歩いてみると、資料上の「徒歩8分」が坂道や踏切でかなり体感時間が違うことが分かります。スーパー、コンビニ、学校、病院の位置も確認しておきたいところです。近隣に競合となる新築アパートが建設中なら、それも将来の空室要因になります。
現地調査に持っていくと役立つもの
現地では想像以上に情報量が多く、あとで「あの部屋の設備どうだったっけ」と思い出せなくなります。A4サイズのクリップボードとメジャーを持っていくと、間取り図に直接メモを書き込めて後から整理しやすくなります。写真はスマートフォンで十分ですが、日付とフォルダを物件ごとに分けておくと比較がはかどります。
資料が増えてくると管理も大変になります。物件ごとにA4サイズのファイルボックスを1つ用意して、資料・重要事項説明書・見積書をまとめておくと、融資相談のときにそのまま持ち出せて便利です。
知識ゼロのまま物件を見に行かない
1棟目でつまずく方の多くに共通しているのは、勉強する前に営業担当者と会ってしまっていることです。知識がない状態では、提示された条件が有利なのか不利なのか判断できません。
体系的に学ぶなら書籍が手軽です。玉川陽介氏の『不動産投資 1年目の教科書』(東洋経済新報社)は、これから始める人がつまずきやすい疑問を項目ごとに解説していて、最初の1冊として読みやすい構成です。営業トークの裏側を知っておきたいなら、大村昌慶氏の『完全版 不動産投資の嘘』(幻冬舎)のように、売り手側の論理を扱った本も併せて読んでおくと目線が偏りません。
税金や手残りの計算に不安があるなら、石井彰男氏の『不動産投資のお金の残し方 裏教科書』(ぱる出版)のような経費・確定申告まわりを扱った本も役に立ちます。数千万円の判断をする前に、数千円の本を数冊読んでおく。この差はあとで大きく効いてきます。
ただし、これらの入門書は刊行から年数が経っているものもあります。考え方や物件の見方は今でも通用しますが、税制・金利・融資の水準といった数字にかかわる部分は、必ず最新の一次情報で確認しながら読み進めてください。

1棟目で避けたい進め方
・その場で契約を迫られて即決する
・自己資金をゼロにしてフルローンを組む
・節税だけを理由に物件を買う
・家賃保証(サブリース)の条件を確認せずに契約する
・物件を1件も比較せずに、紹介された1件だけで決める
特に家賃保証は注意が必要です。保証される家賃は数年ごとに見直されるのが一般的で、契約当初の金額がずっと続くわけではありません。免責期間が設定されていて、入居者募集中の一定期間は保証の対象外というケースもあります。契約書の該当箇所を自分の目で読み、分からない部分は必ず質問してください。
節税を目的にした購入も慎重に考えたいところです。減価償却によって帳簿上の赤字を作り、給与所得と損益通算する仕組み自体は制度として存在しますが、償却が終われば効果は薄れ、その後は税負担が増える局面もあります。税務の扱いは個々の状況で変わるため、国税庁のサイトで基本を確認したうえで、税理士に相談することをおすすめします。

よくある質問
Q. 1棟目は新築と中古のどちらがいいですか
新築は当面の修繕が少なく入居も決まりやすい一方、価格に新築プレミアムが乗っているため利回りは低くなります。中古は利回りを確保しやすい代わりに、修繕リスクと空室リスクを自分で読む力が必要です。手元資金が薄いうちは、修繕履歴が明確な中古を選んで、修繕費の見通しを立てやすくしておく進め方が現実的です。
Q. 自己資金はどのくらい用意すべきですか
物件価格の1〜2割に加えて、諸費用の7〜10%、さらに予備費を確保できるのが理想です。金融機関によって求められる水準は異なりますが、自己資金を多く入れるほど月々の返済負担が軽くなり、空室が出たときの耐久力も上がります。
Q. 何件くらい物件を見てから決めるべきですか
件数に決まりはありませんが、資料ベースで数十件、現地で数件は見ておきたいところです。比較対象がないと、目の前の物件が割安なのか割高なのか判断できません。見送る経験を積むこと自体が、判断力を育てます。
Q. 融資はどこに相談すればいいですか
取引のある銀行、物件所在地の地方銀行や信用金庫、日本政策金融公庫などが候補になります。金融機関によって評価の仕方も金利も条件も異なるため、複数に当たって比較するのが基本です。販売会社の提携ローンだけで決めてしまうと、条件を比べる機会を失います。
Q. 管理会社はどう選べばいいですか
管理戸数の実績、そのエリアでの客付け力、報告の頻度と内容、担当者の反応の速さを見ます。管理料の安さだけで選ぶと、空室が埋まらず結果的に損をすることがあります。既存の入居率がその会社の実力を映すので、担当エリアの数字を聞いてみてください。
まとめ
1棟目の物件選びは、目的・資金・管理方針という3つの軸を固めることから始まります。そのうえで、立地の将来性、相場との乖離、実質利回り、修繕履歴という順に確認していけば、判断の材料はそろいます。
焦って決める理由はどこにもありません。良い物件は探し続けていれば出てきますし、見送った物件を後悔するより、無理をして買った物件に何年も縛られる方がはるかにつらいものです。準備に時間をかけた分だけ、1棟目の精度は上がります。まずは書籍で基礎を固めて、公的な統計と取引価格情報を自分で調べるところから始めてみてください。

