「外国人の入居申し込みが入ったけれど、受けていいものか迷う」――賃貸経営をしていると、一度は直面する場面です。言葉が通じるだろうか、ゴミ出しや騒音のトラブルにならないか、家賃はきちんと払ってもらえるのか。不安の中身を挙げていくとキリがありません。
一方で、空室が埋まらず家賃を下げ続けるくらいなら、受け入れ体制を整えて入居者の母集団を広げたほうがいい、という考え方も現実的です。外国人入居は「受け入れるか断るか」の二択ではなく、どう準備するかで結果が変わるテーマだからです。この記事では、メリットとリスクを整理したうえで、実際に用意しておきたい対策をまとめます。

外国人入居を受け入れるメリット
入居者の母集団が広がり、空室期間が縮まる
最大のメリットは、単純に募集の間口が広がることです。日本国内で暮らす外国籍の方は増加傾向にあり、住まいを探している層は一定の規模で存在します。それに対して、外国人の入居を受け入れている物件は、需要に比べて供給が少ないのが実情です。
駅から遠い、築年数が経っている、間取りが古いといった理由で苦戦している物件でも、受け入れ可という条件を出すだけで問い合わせが動くことがあります。競合物件が受け入れていない地域ほど、この差は効いてきます。
入居期間が長くなりやすい
部屋探しのハードルが高い分、一度住み始めると長く住み続けるケースが多いという傾向があります。転居のたびに保証や審査で苦労するのであれば、いまの部屋にとどまろうと考えるのは自然です。
賃貸経営において、退去は大きなコストです。原状回復費用、募集広告料、仲介手数料、そして空室期間の家賃損失。入居期間が延びることは、そのまま利回りの安定につながります。
法人契約につながる可能性がある
技能実習生や特定技能の在留資格で働く方の場合、受け入れ企業や監理団体が法人として契約するケースがあります。法人契約は家賃の支払い主体が企業になるため、滞納リスクを抑えやすいのが利点です。
また、企業側が複数戸をまとめて借り上げてくれることもあり、一棟物件のオーナーにとってはまとまった稼働につながります。近隣に工場や物流施設がある立地では、検討する価値があります。
入居者の間口を広げる考え方は、賃貸経営や空室対策を扱った本でも取り上げられています。気になる方はチェックしてみてください。
近隣に外国人労働者を多く雇用している企業があるかどうかで、受け入れの効果は大きく変わります。まずは管理会社に、その地域の需要があるかを聞いてみましょう。
想定しておくべきリスク
帰国による家賃の未回収
最も現実的なリスクがこれです。滞納したまま帰国されてしまうと、家賃の回収はほぼ不可能になります。国内であれば督促や法的手続きという手段がありますが、出国後は追いかけようがありません。
また、退去の連絡がないまま部屋が空になっているというケースもあります。この場合、勝手に鍵を開けて荷物を処分することはできず、法的な手続きを踏む必要があるため、時間も費用もかかります。
生活習慣の違いから生じる近隣トラブル
ゴミの分別と収集日、深夜の生活音、共用部での喫煙、友人を集めての食事など、日本の集合住宅で暗黙のルールとされていることが、そもそも共有されていない場合があります。
ここで大事なのは、悪意があるわけではないケースがほとんどだという点です。ルールを知らないだけであれば、伝われば改善されることが多い。逆に言えば、伝える手段を用意していない物件ほどトラブルが長引きます。
契約慣行への理解が得られにくい
礼金、更新料、原状回復費用の負担、連帯保証人。これらは日本の賃貸特有の商慣行で、海外の賃貸契約には存在しないものが少なくありません。「なぜ払うのか」が納得できないまま契約すると、後々の請求時にもめる原因になります。
特に退去時の原状回復は、金額をめぐるトラブルが起きやすい部分です。入居時の説明で、どこまでが入居者負担なのかを具体的に示しておく必要があります。
又貸しや多人数での居住
オーナーの許可なく知人を住まわせる、契約上は単身なのに数人で暮らしている、といったケースも報告されています。設備の消耗が想定より早く進む、近隣から苦情が来るといった形で影響が出ます。
契約書に居住人数と又貸し禁止を明記し、入居時に口頭でも確認しておくのが基本的な対策になります。

受け入れ前に整えておきたい5つの準備
1. 家賃債務保証会社を必須にする
まず押さえるべきはここです。外国人入居者の受け入れでは、家賃債務保証会社の利用を条件にするのが基本と考えていいでしょう。連帯保証人を国内で立てられないケースが多いためです。
保証会社によって、外国人の審査に対応しているか、多言語対応の窓口があるか、失踪時の明け渡し手続きまで含まれるかは異なります。管理会社に「外国人入居に強い保証会社」を確認しておくとスムーズです。
2. 在留資格と在留期間を確認する
入居審査では、在留カードで在留資格と在留期間を確認します。在留期間が契約期間より短い場合、更新の見込みをどう見るかが判断材料になります。留学生であれば在学期間、就労であれば勤務先との契約状況など、背景を含めて聞き取っておくと精度が上がります。
在留カードは出入国在留管理庁のサイトで番号の失効情報を照会できます。書類の確認は差別ではなく、日本人入居者に収入証明を求めるのと同じ、通常の審査手続きです。

3. 多言語のルール説明を用意する
国土交通省は、賃貸人・仲介業者・管理会社向けの実務マニュアルとして「外国人の民間賃貸住宅入居円滑化ガイドライン」を公開しています。入居申込書、重要事項説明書、賃貸住宅標準契約書の見本が多言語で用意されており、そのまま実務に使えます。詳細は国土交通省の外国人の民間賃貸住宅への円滑な入居についてのページで確認できます。
あわせて、入居者向けの「部屋探しのガイドブック」も多言語で提供されています。契約手続きから入居後の注意点までまとまっているため、渡すだけで説明の手間が減ります。
4. ゴミ出しと騒音の掲示物を物理的に設置する
書面を渡しただけでは、実際の場面で思い出してもらえません。ゴミ置き場に多言語表記のゴミ分別シールを貼る、収集日を大きく書いた屋外用のラミネート掲示板を設置する、といった物理的な対策のほうが効きます。
部屋の中では、分別しやすい2〜3分別のペダル式ゴミ箱を備え付けておくと、そもそも分別で迷わせずに済みます。上階の生活音が問題になりやすい物件では、厚手のジョイントマットを入居時に用意しておくと、苦情の芽を先に潰せます。
5. コミュニケーション手段を確保する
緊急時のやり取りが成立しないのは、オーナーにとっても入居者にとっても不安です。水漏れや設備故障の連絡が来たときに意思疎通できないと、被害が広がってしまいます。
管理会社が多言語対応しているかを確認するのが第一ですが、自主管理の場合はポケトークのような音声翻訳機を1台備えておくと現地対応が楽になります。スマートフォンの翻訳アプリでも代替できますが、専用機のほうが会話のテンポは保ちやすいところです。
国籍を理由に一律で入居を断る対応は、人権上の問題として指摘される可能性があります。判断はあくまで、支払い能力や在留状況といった個別の審査項目にもとづいて行いましょう。

受け入れ体制を整えている物件は何が違うか
募集条件の書き方を変えている
「外国人可」と一言添えるだけで、仲介会社からの紹介が増えることがあります。仲介の担当者は、断られる可能性がある物件を積極的に案内しません。受け入れ可であることを明示するのは、コストゼロでできる空室対策です。
初期費用の設計を見直している
礼金や更新料の説明に手間がかかるのであれば、そもそも設定を見直すという選択肢もあります。礼金をなくして家賃に織り込む、更新料をやめて長期入居を促す、といった設計は、日本人入居者にとっても分かりやすい条件になります。
専門の支援団体を活用している
日本賃貸住宅管理協会では、外国人入居の円滑化に向けた情報提供を行っています。実務的な資料や研修の情報が集まっているため、同協会の外国人入居円滑化支援のページに一度目を通しておくと全体像がつかめます。
よくある質問
Q. 保証会社に入ってもらえば連帯保証人は不要ですか?
A. 保証会社の審査基準によります。保証会社のみで契約できる場合もあれば、緊急連絡先として国内在住者の登録を求められる場合もあります。契約前に、どこまでが保証範囲なのか(滞納家賃だけか、明け渡し費用や原状回復まで含むのか)を確認しておきましょう。
Q. 日本語が話せない方でも受け入れて大丈夫でしょうか?
A. 日本語能力そのものより、緊急時に連絡が取れる体制があるかどうかが実務上の分かれ目です。勤務先や学校の担当者、日本語が話せる知人などを緊急連絡先として登録してもらえるなら、対応の目処は立ちます。
Q. 退去時の原状回復でもめないためには?
A. 入居時に室内の状態を写真で残し、入居者と共有しておくのが最も効きます。国土交通省の原状回復ガイドラインの考え方(経年変化・通常損耗は貸主負担)を、多言語資料で先に伝えておくと、退去時の説明が一気に楽になります。
Q. 途中で帰国された場合、部屋の荷物はどうなりますか?
A. 残置物を勝手に処分することはできません。契約書に残置物の取り扱いに関する条項を入れておく、保証会社の明け渡し対応が付いたプランを選ぶ、といった備えが現実的です。実際に発生した場合は、自己判断で動かず弁護士や管理会社に相談してください。
Q. 火災保険や家財保険はどうすればいいですか?
A. 日本人入居者と同様に、借家人賠償責任保険が付いた火災保険への加入を条件にするのが一般的です。保険の必要性が理解されにくい場合があるため、なぜ必要かを説明する多言語の資料があると納得を得やすくなります。
Q. 家賃の支払い方法はどうするのがいいですか?
A. 口座振替やクレジットカード決済など、支払い忘れが起きにくい方法を最初に設定しておくのが有効です。銀行口座の開設に時間がかかる場合もあるため、入居のタイミングと支払い開始日のずれを事前に確認しておきましょう。保証会社の集金代行サービスを使えば、支払い状況の把握もまとめて任せられます。
Q. 入居中にトラブルが起きたら、まず誰に相談すればいいですか?
A. 管理を委託しているなら管理会社が窓口になります。自主管理の場合は、勤務先や学校の担当者に間に入ってもらう方法が現実的です。自治体によっては外国人住民向けの相談窓口や多文化共生センターを設けており、生活ルールの説明で協力を得られることもあります。
Q. 短期滞在の方から申し込みがあった場合はどうしますか?
A. 数か月単位の滞在であれば、通常の普通借家契約より定期借家契約のほうが実情に合う場合があります。期間満了で契約が終了する仕組みのため、退去時期の見通しが立てやすくなります。ただし契約手続きに要件があるため、管理会社や専門家に確認したうえで進めてください。
Q. 受け入れを始めるにあたって、最初にやることは何ですか?
A. 管理会社に「この物件で外国人入居に対応できるか」を確認するところからです。対応可能な保証会社の紹介、募集条件の書き換え、多言語資料の準備まで、実務の大半は管理会社と一緒に進めることになります。自主管理の場合は、保証会社との直接契約が可能かを先に調べておきましょう。
まとめ|断る前に、準備できることを洗い出す
外国人入居は、リスクだけを見れば避けたくなるテーマです。ただ、そのリスクの多くは、保証会社の利用、在留資格の確認、多言語での説明という3つの準備でかなり抑えられます。
逆に、準備をしないまま「なんとなく不安だから」と断り続けると、募集の間口を狭めたまま空室と向き合うことになります。家賃を下げるより先に、受け入れ体制を整えるほうが収益への影響は小さいはずです。
まずは管理会社に、地域の需要と対応可能な保証会社を確認するところから始めてみてください。ゴミ出しの掲示物を1枚貼るだけでも、変わることがあります。


