「フィリピンは人口が若くて経済も伸びているから、不動産投資に向いているらしい」――そうした話を聞いて興味を持った方は多いのではないでしょうか。実際、東南アジアの中でも人口構成の若さは注目されており、日本の投資家向けにフィリピンの物件を紹介する会社も増えています。
ただ、フィリピン不動産投資を検討するうえで最初に押さえておきたいのは、利回りの数字ではありません。外国人には土地の所有が原則として認められていないという、法制度そのものの前提です。ここを理解しないまま話を進めると、想定していた投資と実態がまるで違うということになりかねません。
この記事では、フィリピン不動産投資を検討する方に向けて、外国人規制の中身、投資対象として現実的に選べる形、そして日本国内の物件では発生しないリスクを整理します。おすすめできる進め方と、避けたほうがよい進め方を分けて解説します。

フィリピンで外国人が買えるもの・買えないもの
土地の所有は原則として認められていない
フィリピンでは憲法によって外国人の土地所有が制限されており、日本人が現地の土地を自分名義で所有することは原則としてできません。これはビザの種類や投資額によって覆るものではなく、長期滞在資格を持っていても変わらない、という点が重要です。
つまり、日本でよくある「戸建てを買って貸す」「アパートを一棟買う」といった、土地を伴う投資の形は、外国人には基本的に選べないということになります。国土交通省の海外建設・不動産市場データベースでも、外国人・外国企業が所有できる不動産はコンドミニアム、またはコンドミニアム扱いのタウンハウスに限られると整理されています。
詳細は国土交通省の海外建設・不動産市場データベース(フィリピン)で公的な整理を確認できます。営業資料の説明だけで判断せず、一次情報にあたる習慣をつけておきたいところです。
国ごとの制度の違いは、海外不動産投資を扱った本で全体像をつかんでおくと、営業担当者の説明を受けた際にも判断しやすくなります。
コンドミニアムには外国人保有の上限がある
外国人が取得できるのは、コンドミニアム法にもとづく区分所有のユニットです。ただしこれにも制限があり、1棟のコンドミニアムのうち外国人が保有できるのは全体の一定割合までとされています。一般に「40%まで」と説明される枠がこれにあたります。
この枠が埋まっている物件は、日本人が買いたいと思っても取得できません。人気の開発案件では外国人枠が早い段階で埋まることもあるため、購入を検討する際はその物件の外国人枠に空きがあるかを最初に確認する必要があります。
名義を借りる方法は法律で禁じられている
「現地の知人の名義で土地を買えばいい」「現地法人を作って過半数を現地の人に持たせればいい」といった話を耳にすることがあります。しかし、こうした名義貸しはアンチ・ダミー法で禁止されており、契約自体が無効になる可能性があります。
名義貸しのスキームを勧めてくる相手がいたら、その時点で距離を置くことをおすすめします。仮に取引が成立しても、権利が守られない状態を抱えたまま資金を投じることになります。
なお、土地については賃借(リース)という選択肢があり、投資目的の場合は長期のリース契約を結べる制度が用意されています。ただしこれは所有ではないため、期間満了後の扱いを含めて契約内容を精査する必要があります。

フィリピン不動産投資で現実的に選べる形
竣工前に契約するプレビルドという方式
フィリピンの物件販売では、建物が完成する前に契約する「プレビルド」が広く使われています。着工前や工事中の段階で購入を申し込み、竣工までの数年間にわたって分割で代金を払っていく方式です。完成物件より価格が抑えられることが多く、これを理由に勧められるケースが目立ちます。
ただし、プレビルドは「まだ存在しないものを買う」契約である以上、竣工が予定より遅れる、当初の計画から仕様が縮小される、といった事態が起こり得ます。実際に完成が数年単位で遅れた例も報告されています。支払いは進むのに家賃収入が始まらない期間が延びると、資金計画は一気に苦しくなります。
完成済みの物件を買うという選択
一方、すでに完成して稼働している物件を買う方法もあります。現物を見て判断できる、賃貸の実績が確認できる、購入後すぐに運用を始められる、という点で、初めて海外物件に取り組む方にはこちらのほうが検討しやすい面があります。価格はプレビルドより高くなる傾向がありますが、「本当に建つのか」という不確実性を負わずに済むのは大きな違いです。
賃貸に出すまでに追加費用がかかる
現地のコンドミニアムは、引き渡し時点では最低限の内装しか施されていないことが少なくありません。実際に貸し出すには、家具・家電・照明・カーテンなどを揃える必要があります。駐在員向けに貸すのであれば、それなりの水準の設備が求められます。
この「家具付きにするための費用」は購入価格に含まれていないため、資金計画から抜け落ちがちです。物件価格と諸費用だけを見て利回りを計算すると、実際の手残りとの差が大きくなります。
日本国内の物件にはないリスク
為替の変動が損益を左右する
海外物件の家賃は現地通貨で入ってきます。円に換算した時点での金額は為替次第で変わるため、現地の家賃が変わらなくても円ベースの収入は上下します。購入時に円安が進んでいれば、円で見た取得価格は割高になります。
為替は自分でコントロールできない変数です。「現地通貨ベースでは順調でも、円に戻すと目減りしている」という状況は普通に起こります。為替が有利に動くことを前提に置いた計画は立てないほうが安全です。
売りたいときにすぐ売れるとは限らない
フィリピンの中古住宅市場は、日本のように情報が集約された流通の仕組みが十分に整っているとは言いにくい状況にあります。エージェント同士のつながりで取引が進む部分も大きく、売却の成立までに数か月から1年以上かかることも珍しくないと言われています。
投資は買うところではなく、売るところまで含めて一つのサイクルです。出口が読みにくい市場では、資金を長く固定される前提で臨む必要があります。生活資金や近い将来に使う予定のあるお金を投じるのは避けてください。
管理を任せる相手を選べるか
遠隔地の物件は、現地で動いてくれる人がいなければ回りません。入居者の募集、家賃の回収、設備の不具合への対応、退去時の原状回復。これらを誰がどう担うのかを、購入前に確認しておく必要があります。販売会社が管理も請け負うと説明していても、その体制が実際にどう機能しているかは別の話です。

検討を進めるなら押さえておきたい準備
契約書は英語で交わされる
売買契約書も管理委託契約書も、基本的には英語です。専門用語が多く、日本語訳が付いていてもそれが正式な効力を持つとは限りません。解約条件、引き渡し遅延時の取り扱い、支払いが滞った場合の扱いといった、揉めやすい条項ほど丁寧に読む必要があります。
英語の契約書と何度も向き合うのは、正直かなり骨が折れます。手元に紙で残して読み込む方も多く、その場合はA4サイズのファイルボックスとインデックス付きのクリアファイルで契約書・領収書・送金記録をまとめておくと、後から見返すときに探し回らずに済みます。海外送金の記録は確定申告でも使うため、時系列で残しておく価値があります。
現地に視察へ行く場合は、ポケトークのような双方向の翻訳機や、現地で使えるeSIM対応のデータプランを用意しておくと、エージェントとのやり取りが楽になります。フィリピンの電源プラグはType Aが中心ですが電圧が日本と異なるため、海外電圧対応(100〜240V)のUSB急速充電器も持っていくと安心です。
税金の扱いは日本側でも確認する
海外の中古建物を使った減価償却で、日本の所得と損益通算する手法は、税制改正によって制限が加えられています。国外中古建物について簡便法で計算した減価償却費に相当する部分の損失は、他の所得と通算できない扱いになりました。国税庁のタックスアンサーなどで、不動産所得が赤字になった場合の取り扱いを確認しておくとよいでしょう。
また、現地での課税と日本での課税がどう調整されるかも論点になります。海外資産を扱う税務は専門性が高いため、契約前に国際税務に対応できる税理士へ相談することをおすすめします。ほかの国の例として、アメリカ不動産を日本から購入する流れと税金の注意点は、以下の記事で整理しています。

現地の経済情報にあたる
物件単体の話だけでなく、その国の経済や政策の方向性を自分で確認しておきたいところです。JETROのフィリピン基礎情報では、経済概況や規制に関する情報が公開されています。販売会社の資料だけを情報源にしないというのが、海外投資では特に大切です。
おすすめできる進め方と、避けたい進め方
・法制度(土地の所有制限・外国人枠)を先に確認してから物件を見る
・完成物件から検討を始め、プレビルドは仕組みを理解してから
・家具設置費や管理コストを含めた手残りで計算する
・為替が不利に動いた場合の数字も並べて見る
・売却までの期間が長引く前提で余裕資金を充てる
・日本側の税務を契約前に確認する
逆に避けたいのは、利回りの数字と「これから伸びる」という説明だけで判断を進めてしまうことです。成長が見込まれる市場であっても、それが個々の物件の収益を保証するわけではありません。


よくある質問
Q. フィリピンで戸建てを買って貸すことはできますか
A. 戸建ては土地とセットになるため、外国人が自分名義で所有することは原則としてできません。コンドミニアム扱いになっているタウンハウスであれば取得できる場合がありますが、その物件が制度上どういう扱いなのかを個別に確認する必要があります。
Q. 現地で融資を受けて買えますか
A. 外国人が現地の金融機関から住宅ローンを引くのは、条件が限られます。デベロッパーが用意する分割払いの仕組みを使うケースが多く、その場合の金利や支払い条件は契約書で確認してください。日本の金融機関が海外物件を担保に融資するケースも限定的です。
Q. 利回りはどのくらい期待できますか
A. 物件の立地・グレード・管理状況によって差が大きく、一律の数字を示すことはできません。営業資料に載っている利回りは満室想定であることが多く、空室期間・管理費・修繕費・現地の税金・送金手数料を引いた後の数字とは別物です。提示された数字がどの費用を差し引いた後のものかを確認してください。
Q. 現地に行かずに買っても大丈夫でしょうか
A. 現地を見ずに契約するのは、リスクの取り方としてはかなり大きい部類に入ります。周辺の環境、建物までのアクセス、実際に住んでいる人の層は、写真や資料だけでは分かりません。少なくとも一度は現地を訪れて、複数の物件を見比べてから判断することをおすすめします。
Q. 日本の物件と比べて、どちらを先に検討すべきですか
A. 不動産投資そのものが初めてであれば、制度も言語も慣れている日本国内から始めるほうが学びやすいのは確かです。海外は「投資の難しさ」に「制度と言語と距離の難しさ」が上乗せされます。国内で一度運用を経験してから海外を検討する、という順序も十分に合理的です。海外の別の国について外国人の所有規制やリスクの見方を知りたい方は、以下の記事も参考になります。



Q. 現地の管理会社が倒産したらどうなりますか
A. 区分所有している部屋そのものの権利は残りますが、賃貸の運営を代わりに担う先を新たに探す必要が出てきます。遠隔からこれを行うのは負担が大きいため、契約前に「その会社以外にも選択肢があるエリアか」を見ておくと、いざというときの動きやすさが変わります。
まとめ
フィリピン不動産投資は、法制度の前提が日本とまったく異なります。土地は原則として所有できず、コンドミニアムにも外国人枠がある。この2点を理解したうえで、完成物件を軸に、家具設置費や管理体制、為替、そして出口までを含めて数字を組み立てる。それが、おすすめできる検討の順序です。
成長が語られる市場ほど、勢いのある説明が並びます。だからこそ、公的な情報源にあたって前提を自分で確かめる作業に時間をかけてください。物件を見るのは、そのあとで遅くありません。

