不動産投資で物件を手放すとき、多くの方が最初に迷うのが「仲介にするか、買取にするか」という選択です。どちらも所有物件を現金化する方法ですが、売却価格・スピード・手数料・売却後の責任まで、性質がまったく異なります。
この違いを知らないまま不動産会社に相談すると、本来もっと高く売れたはずの物件を安値で手放してしまうことにもなりかねません。逆に、時間的な余裕がない場面で仲介にこだわり続け、固定資産税やローン返済だけが積み上がっていくケースもあります。
この記事では、不動産投資の出口戦略という視点から、仲介と買取の違いを構造から整理し、どんな物件・どんな状況でどちらを選ぶべきかを解説します。

仲介と買取の違いは「買い手が誰か」に尽きる
仲介は不動産会社が買い手を探してくれる仕組み
仲介とは、不動産会社に販売活動を依頼し、エンドユーザー(実際にその物件を使う人や、次の投資家)を探してもらう売却方法です。不動産会社の立場はあくまで仲立ち役で、物件を買うわけではありません。
レインズ(不動産流通標準情報システム)への登録、ポータルサイトへの掲載、チラシ配布などを通じて広く買い手を募集し、条件が合った相手と売買契約を結びます。買い手が市場から現れるのを待つ形なので、相場に近い価格で売れる可能性が高いのが最大の魅力です。
買取は不動産会社そのものが買い手になる
一方の買取は、不動産会社が自社の資金で直接物件を購入する方法です。買い手を探す期間が不要なので、話がまとまれば数週間から1ヶ月程度で決済まで進むこともあります。
ただし、不動産会社は買い取った物件をリフォームしたうえで再販売し、利益を出す前提で価格を提示します。その分、買取価格は仲介で売れる想定価格の7〜8割程度が目安とされ、物件の状態や立地によってはさらに下がることもあります。
この違いから、すべての差が生まれている
価格差も、スピードの差も、手数料の差も、突き詰めれば「買い手が市場の誰かなのか、目の前の不動産会社なのか」という一点から派生しています。ここを押さえておくと、営業担当の説明を聞いたときに何が起きているのかが判断しやすくなります。
仲介=市場に売る/買取=不動産会社に売る。この一点の違いが、価格・期間・責任の差につながっている。
売却の流れを一冊で押さえておくと、営業担当の説明を自分で判断しやすくなります。
項目別に比較すると違いがはっきりする
| 比較項目 | 仲介 | 買取 |
|---|---|---|
| 買い手 | 一般の購入希望者・投資家 | 不動産会社 |
| 売却価格の水準 | 市場相場に近い | 相場の7〜8割程度が目安 |
| 売却までの期間 | 数ヶ月かかることも多い | 数週間〜1ヶ月程度 |
| 仲介手数料 | 成約時に発生 | 原則かからない |
| 契約不適合責任 | 売主が負う | 免責となるケースが多い |
| 内見対応 | 入居者・買主対応が必要 | ほぼ不要 |
| 売却情報の露出 | 広告で公開される | 公開されない |
仲介手数料の上限は法律で決まっている
仲介を選んだ場合に発生する仲介手数料は、宅地建物取引業法で上限が定められています。売買価格が400万円を超える場合は「売買価格×3%+6万円+消費税」が上限で、この金額を超える請求は認められていません。
なお、記事執筆時点では低価格帯の取引について特例が設けられており、売買価格800万円以下の物件は、売主・買主それぞれから30万円+消費税(税込33万円)までを上限とする取り扱いが可能になっています。これは事前に媒介契約で合意していることが条件で、不動産会社が一方的に引き上げられるものではありません。地方の低価格物件を整理する場面では、想定より手数料の負担率が高くなる点に注意が必要です。
手数料の考え方については、国土交通省の宅地建物取引業法関係のページで制度の枠組みを確認できます。

買取が向いているのはこんなケース
期限が決まっている売却
相続税の納付期限、他物件の購入資金、ローンの借り換えなど、「いつまでに現金化しなければならない」という期限がある場合は買取の出番です。仲介は買い手が現れる時期を読めないため、期限が迫っている状況では計画が崩れやすくなります。
売却を周囲に知られたくない
仲介ではポータルサイトや広告で物件情報が公開されるため、入居者や近隣、場合によっては勤務先に売却の動きを察知される可能性があります。買取なら販売活動を行わないので、情報が外に出ません。
物件の状態に不安がある
築年数が古い、雨漏りの履歴がある、設備が老朽化しているといった物件は、仲介で売却した後に不具合が発覚すると、売主が契約不適合責任を問われることがあります。買取ではこの責任が免責される契約になるケースが多く、売った後のトラブルリスクを抑えられる点が実務的なメリットです。
入居者対応や残置物の処理が負担になっている
遠方の物件で、退去後の残置物が片付いていない、内見のたびに現地に足を運ぶ必要がある――こうした手間が積み重なるのは、本業を持つ投資家にとってかなりの負担です。買取なら現況のまま引き渡せることが多く、この工数がまるごと消えます。
買取価格が相場より大幅に低い場合、その理由を必ず説明してもらいましょう。「今日中に返事を」と急かす業者には、その場で結論を出さないことが大切です。
仲介が向いているのはこんなケース
時間に余裕がある
売却期限に縛りがなく、半年程度は腰を据えて待てるのであれば、仲介で市場価格を狙う方が手残りは大きくなりやすい傾向があります。同じ物件でも、買取と仲介で数百万円の差がつくことは珍しくありません。
需要の見込める立地・築年数
駅近、人気エリア、築浅といった条件が揃っている物件は、市場でも買い手がつきやすく、仲介の強みが活きます。反対に、駅から遠い・築古・再建築不可といった条件が重なると、仲介では長期戦になりがちです。
収益物件として売れる状態にある
入居者がついていて安定した家賃収入が出ている物件は、次の投資家にとって魅力的な商品です。レントロール(賃貸借条件一覧表)や修繕履歴をきちんと整えておくと、仲介での評価が上がりやすくなります。書類が散らかっている状態で査定に出すと、それだけで減額の口実にされることもあるため、A4サイズのファイルボックスや二穴のフラットファイルで契約書・修繕記録・確定申告書類をまとめておくと、査定のたびに探し回らずに済みます。
売却を検討し始めた段階で、国土交通省の不動産情報ライブラリで周辺の成約事例を確認しておくと、提示された査定額が妥当かどうかを自分の目で判断しやすくなります。

両方のいいとこ取りを狙う「買取保証」という選択肢
仲介と買取のあいだを埋める方法として、買取保証(買取保証付き仲介)があります。これは、まず一定期間は仲介として市場で販売活動を行い、期限までに売れなければ不動産会社があらかじめ決めた金額で買い取るという仕組みです。仲介期間は3ヶ月程度に設定されることが一般的です。
「相場で売れればそれがベスト。でも売れ残るのは困る」という状況では合理的な選択になります。ただし、保証される買取価格は通常の買取と同水準か、それより低めに設定されることもあります。契約前に、保証価格・保証期間・保証が発動する条件の3点を書面で確認しておきましょう。
買取保証は「売れなかったときの下限を決めておく保険」。上限が上がるわけではないので、保証価格の水準を必ず数字で確認する。
判断を間違えないための3つの手順
手順1:仲介の査定と買取の査定を両方取る
最初から買取だけ、仲介だけに絞るのは避けたいところです。同じ物件でも会社によって査定額に差が出るため、仲介の査定を複数社、買取の査定を複数社、それぞれ取って並べてみるのが基本です。金額の幅を見て初めて、自分の物件の立ち位置が見えてきます。
手順2:手取り額で比較する
比較すべきは提示価格ではなく、諸費用を引いた後の手取り額です。仲介なら仲介手数料・印紙税・抵当権抹消費用、買取ならそれらの一部が不要になります。さらに売却益が出れば譲渡所得税がかかります。所有期間が5年を超えるかどうかで税率区分が変わるため、決済のタイミングも含めて計算しておく必要があります。
手順3:残債と照らし合わせる
ローンが残っている物件では、売却代金でローンを完済できるかどうかが最大の関門です。売却価格が残債を下回る場合、不足分を自己資金で埋めないと抵当権を外せず、売却自体が成立しません。買取価格が相場の7〜8割になることを踏まえると、残債が多い物件では買取という選択肢自体が取れないこともあります。
この計算をどんぶり勘定で進めてしまい、後から資金が足りないと気づくのは精神的にもかなりこたえます。売却を検討し始めた時点で、返済予定表と直近の残高証明を手元に出して、電卓ではなく表計算ソフトで一度きちんと組んでおくことをおすすめします。

出口戦略の知識をどう補うか
売却の実務は、購入時に比べて情報が出回りにくい分野です。営業担当の説明を鵜呑みにせず自分で判断するには、体系的にまとまった書籍で一度全体像を入れておくのが遠回りに見えて確実です。
不動産投資の入り口としては、石原博光さんの『まずはアパート一棟、買いなさい!』が長く読まれている一冊です。物件の見方から出口までを実務ベースで扱っており、投資の考え方そのものを固めたい場合はロバート・キヨサキさんの『改訂版 金持ち父さん 貧乏父さん』が定番として挙げられます。加えて、譲渡所得の計算まで踏み込むなら、税務の入門書を1冊手元に置いておくと確定申告の時期に慌てずに済みます。
制度面の確認は、国税庁の譲渡所得に関するページが一次情報として使えます。書籍で全体像を掴み、数字の根拠は公的サイトで裏を取る、という二段構えが安全です。
よくある質問
Q. 買取と仲介、査定を同時に依頼しても問題ありませんか?
問題ありません。むしろ両方の金額を並べて比較するのが基本的な進め方です。ただし、査定を依頼した会社すべてと媒介契約を結ぶ必要はありません。査定はあくまで見積もりの段階なので、金額と担当者の説明の質を見て、依頼先を絞り込んでいきましょう。
Q. 入居者がいる状態でも買取は可能ですか?
可能です。入居者がついたまま売買する「オーナーチェンジ」という形になり、買取業者によっては入居中の物件を専門に扱っているところもあります。入居者に立ち退いてもらう必要はなく、賃貸借契約はそのまま新しい所有者に引き継がれます。
Q. 買取価格が相場の7〜8割というのは、どの物件でも同じですか?
一律ではありません。再販しやすい立地・築年数の物件であれば相場に近づくこともあれば、修繕に大きな費用がかかる物件や需要の薄いエリアでは、さらに低い水準になることもあります。提示された金額の根拠を、再販想定価格・想定リフォーム費用・利益率という内訳で説明してもらうと納得感が変わります。
Q. 仲介で売り出したものの売れない場合、途中で買取に切り替えられますか?
切り替えは可能です。媒介契約には期間が定められており、更新のタイミングで方針を変更できます。ただし、長期間市場に出ていた物件は「売れ残り」という印象がつき、買取査定でも不利に働くことがあります。だからこそ、最初の段階で買取保証を組み込むかどうかを検討しておく意味があります。
Q. 契約不適合責任が免責されるなら、買取の方が安全ということですか?
売却後のトラブルリスクという一点では、買取の方が負担は軽くなります。ただし免責は自動的に付くものではなく、契約書の条項として明記されて初めて有効です。買取であっても、契約書に免責の記載があるかどうかは必ず自分の目で確認してください。
まとめ
仲介と買取の違いは、買い手が市場の誰かなのか、目の前の不動産会社なのかという一点に集約されます。ここから、価格・期間・手数料・売却後の責任という4つの差が生まれています。
時間に余裕があり、需要の見込める物件なら仲介で相場を狙う。期限が決まっている、状態に不安がある、周囲に知られたくないという事情があるなら買取を検討する。どちらとも決めきれない場合は買取保証という中間の選択肢もあります。
不動産投資は投資である以上、売却価格が市況によって上下することは避けられません。だからこそ、複数社の査定を並べ、手取り額と残債で冷静に判断する手順を踏むことが、出口で後悔しないための現実的な備えになります。

