物件を売って利益が出たとき、その利益にどれくらいの税金がかかるのか。この見通しを持たないまま売却に踏み切ると、手元に残る金額が想定と大きくずれることがあります。売買代金が振り込まれて安心していたら、翌年の申告で数百万円の納税が必要になった――そんな話も珍しくありません。
不動産の売却益にかかる税金は、給与や家賃収入とは切り離して計算される分離課税という仕組みで課されます。そして税率は、物件をどれだけの期間持っていたかで大きく変わります。
この記事では、不動産投資における譲渡所得の計算方法と税率を、計算式・所有期間の判定・取得費の出し方という3つの軸で解説します。売却を検討している方はもちろん、これから物件を買う方にも関係する内容です。

譲渡所得の計算式
基本の式はシンプル
課税譲渡所得金額 = 譲渡価額 -(取得費 + 譲渡費用)- 特別控除額
式そのものは難しくありません。問題は「取得費」をいくらで計算するかで、税額が大きく変わる点にあります。ここを誤解している方が非常に多い箇所です。
譲渡価額
売買契約に基づいて受け取る金額です。固定資産税の精算金を受け取っている場合、その分も譲渡価額に含めるのが一般的な取扱いとされています。
譲渡費用
売却のために直接支出した費用です。主なものは次のとおりです。
- 仲介手数料
- 売買契約書に貼付した印紙税
- 建物を取り壊して土地を売った場合の取壊し費用と建物の未償却残高
- 入居者に立ち退いてもらった場合の立退料
- より有利な条件で売るために契約を解除した際の違約金
- 借地権を売るときに地主に支払った名義書換料
一方で、修繕費や固定資産税といった物件の維持管理にかかった費用は譲渡費用になりません。これらは保有期間中に不動産所得の必要経費として処理するものです。売却に向けたハウスクリーニング費用なども、譲渡費用に該当するかは個別判断となるため、税理士に確認してください。譲渡費用と必要経費の線引きは、不動産の確定申告を扱った本で一度整理しておくと迷いにくくなります。

所有期間で税率が変わる「5年ルール」
短期譲渡所得と長期譲渡所得
譲渡所得の税率は、所有期間によって2つに分かれます。
| 区分 | 所有期間 | 所得税 | 復興特別所得税 | 住民税 | 合計 |
|---|---|---|---|---|---|
| 短期譲渡所得 | 5年以下 | 30% | 0.63% | 9% | 39.63% |
| 長期譲渡所得 | 5年超 | 15% | 0.315% | 5% | 20.315% |
復興特別所得税は所得税額に2.1%を乗じたもので、令和19年(2037年)まで課されることとされています。短期と長期では税率がおよそ2倍違うため、売却のタイミングは慎重に判断する必要があります。詳細は国税庁のタックスアンサー「No.3208 長期譲渡所得の税額の計算」と「No.3211 短期譲渡所得の税額の計算」で確認できます。
所有期間の数え方に落とし穴がある
ここが最も間違えやすいポイントです。所有期間は、取得した日から売った日までの実際の年数ではありません。譲渡した年の1月1日時点で5年を超えているかどうかで判定します。
2020年6月に取得した物件を、2025年12月に売却した場合
実際の所有期間は5年6か月だが、譲渡した年(2025年)の1月1日時点では4年7か月
→ 短期譲渡所得として39.63%が適用される
同じ物件を2026年1月に売却した場合
2026年1月1日時点で5年7か月
→ 長期譲渡所得として20.315%が適用される
わずか1か月の差で税率が2倍変わることになります。売却の話が進んでいる段階で「年内に決済するか、年明けにするか」という選択が出てきたら、この判定を必ず確認してください。売却のタイミングをどう判断するかについては、以下の記事で基準をまとめています。



取得費の計算が税額を左右する
賃貸物件は減価償却費を差し引く
取得費は「購入代金+取得に要した費用」から、保有期間中に必要経費に算入した減価償却費の累計額を差し引いた金額になります。
取得費 =(土地の購入代金 + 建物の購入代金 + 取得に要した費用)- 減価償却費の累計額
※ 減価償却の対象は建物のみ。土地は減価償却しない
ここを見落とすと計算が大きくずれます。たとえば3,000万円で買った物件を3,000万円で売れば「利益ゼロだから税金もゼロ」と思いがちですが、保有期間中に建物部分を600万円償却していれば、取得費は2,400万円になります。帳簿上は600万円の譲渡益が出ているという計算です。
減価償却費を経費として計上してきた分、売却時に精算される――そういう構造になっていると理解しておくと、収支計画を立てやすくなります。減価償却と売却時の精算の関係は、減価償却を扱った本で確認しておくと理解が深まります。
取得に要した費用に含まれるもの
- 購入時の仲介手数料
- 登録免許税・登記費用(司法書士報酬)
- 不動産取得税
- 売買契約書に貼付した印紙税
- 購入時に負担した固定資産税の精算金
- 土地の造成費用、測量費
- 建物付きの土地を買って建物を取り壊した場合の取壊し費用
ただし、これらを不動産所得の必要経費としてすでに計上している場合は、重ねて取得費に含めることはできません。どちらで処理したかを整理しておく必要があります。
取得費が分からないときの「5%ルール」
相続で引き継いだ古い物件などで購入時の資料が残っていない場合、譲渡価額の5%を取得費とみなす概算取得費という方法があります。ただしこれは売却額の95%が課税対象になるということを意味し、税負担はかなり重くなります。
売買契約書が見つからなくても、当時の通帳の記録、住宅ローンの返済予定表、購入時のパンフレット、抵当権設定額といった資料から実際の取得費を推計できる場合があります。諦めて5%ルールを使う前に、まずは資料を探してみる価値があります。
ここでも効いてくるのが日ごろの書類管理です。物件ごとにA4サイズのファイルボックスを用意して、売買契約書・重要事項説明書・登記識別情報・購入時の精算書をまとめて保管しておけば、何十年後の売却時にも困りません。書類が劣化しやすい方は、両面同時読み取りに対応したドキュメントスキャナで電子化しておくと安心です。


計算例で全体を確認する
【前提】
・取得価額:4,000万円(土地1,500万円/建物2,500万円)
・取得時の諸費用:150万円
・保有期間中の減価償却費累計:500万円
・売却価額:4,500万円
・譲渡費用(仲介手数料等):160万円
・所有期間:譲渡年の1月1日時点で8年
【計算】
取得費 = 4,000万円 + 150万円 - 500万円 = 3,650万円
譲渡所得 = 4,500万円 -(3,650万円 + 160万円)= 690万円
税額 = 690万円 × 20.315% = 約140万円
同じ条件でも所有期間が譲渡年の1月1日時点で5年以下だった場合、税率は39.63%となり、税額は約273万円まで増えます。その差は130万円あまりです。実際の計算には他の要素が絡むこともあるため、あくまで考え方を示す例としてご覧ください。
おおまかな試算をしてみたい方は、国税庁の確定申告書等作成コーナーに数値を入力してみると、自分のケースでの目安がつかめます。
試算に入れる「売却価額」の見当がつかないときは、不動産会社の査定を参考にする方法があります。リビンマッチの不動産売却は、物件の種別や所在地を入力すると最大6社にまとめて査定を依頼できるサービスで、利用料は無料と公式サイトで案内されています。査定額は売れる見込みの目安であり、実際の売却額や税額を決めるものではありません。



売却時に押さえておきたいこと
納税は翌年になる
売却した年の翌年、2月16日から3月15日までの間に確定申告を行い、納税します。売却代金を受け取ってすぐに次の物件購入や借入返済に充ててしまうと、納税時に資金が足りなくなるという事態が起こり得ます。譲渡所得税の概算額は、必ず別枠で確保しておいてください。
また、住民税は売却の翌年6月以降に納付書が届くか、給与から特別徴収される形になります。納税のタイミングが所得税とずれる点にも注意が必要です。
損失が出た場合の扱い
投資用不動産を売って損失が出た場合、その損失は同じ年の他の不動産等の譲渡所得と相殺できますが、給与所得など他の所得との損益通算は原則としてできません。マイホームの売却には損益通算や繰越控除の特例がありますが、投資用物件は対象外です。
使える特例があるか確認する
事業用資産を買い換えた場合の課税の繰延べなど、一定の要件を満たすと適用できる特例があります。ただし要件が細かく、適用の可否は個別事情によって変わります。売却を検討し始めた段階で、税理士に相談しておくのが確実です。
この記事の内容は一般的な制度の説明です。譲渡所得の計算は、取得の経緯(購入・相続・贈与)や物件の用途によって取扱いが変わります。実際の申告にあたっては、必ず税理士や所轄の税務署にご確認ください。


税金を計算するには、そもそも売却額の見込みが必要です。売却を具体的に考え始めたら、仲介と買取の査定を並べて、手元に残る金額を試算しておくと安心です。いえカツLIFEは、仲介・業者買取・リースバックの査定を一度の入力で取り寄せられる一括査定サービスで、査定は無料と案内されています。査定額は売却価格を保証するものではありません。



よくある質問(Q&A)
Q. 所有期間の起算日はいつですか?
A. 原則として引渡しを受けた日です。ただし売買契約の効力発生日を取得日とすることもできる取扱いがあります。判定が微妙なケースでは税理士にご確認ください。
Q. 相続で取得した物件の所有期間はどう数えますか?
A. 相続や贈与で取得した場合、原則として被相続人や贈与者が取得した日を引き継いで判定します。相続してすぐ売っても長期譲渡所得になることがあります。
Q. 3,000万円の特別控除は使えますか?
A. あの特例はマイホーム(居住用財産)を売った場合のものです。投資用の賃貸物件には適用されません。
Q. 10年超所有の軽減税率も使えませんか?
A. こちらも居住用財産に関する特例のため、投資用物件は対象外です。
Q. 法人で所有している場合の税率はどうなりますか?
A. 法人の場合は分離課税ではなく、他の所得と合算して法人税等が課されます。短期・長期の区分もありません。個人と法人のどちらで持つかは、保有期間や売却計画によって有利不利が変わります。
Q. 売却したのに申告しなくても大丈夫ですか?
A. 不動産の取引は登記情報などを通じて把握されます。譲渡益が出ているのに申告しなければ、後から加算税・延滞税を含めた納付を求められることになります。損失の場合でも、申告して問題ありません。
Q. 売却時の税金について勉強できる本はありますか?
A. 全国宅地建物取引業協会連合会が毎年発行している『不動産の税金これだけガイド』のような年度版の実務書は、譲渡所得を含む不動産税制を一冊で確認できます。大家目線の解説なら『不動産投資のお金の残し方 裏教科書 税理士大家さんがコッソリ教える』などもあります。
まとめ
- 譲渡所得 = 譲渡価額 -(取得費 + 譲渡費用)- 特別控除額
- 税率は短期39.63%・長期20.315%。所有期間で約2倍の差
- 所有期間は「譲渡した年の1月1日時点」で判定する。実年数ではない
- 取得費からは保有期間中の減価償却費の累計額を差し引く
- 取得費が不明な場合の概算取得費(譲渡価額の5%)は税負担が重い。資料は必ず保管する
- 納税は翌年。売却代金をすべて使い切らず、納税資金を確保しておく
売却の税金は、買った瞬間から積み上がっていく減価償却費と密接に結びついています。出口を意識した記録の残し方をしておくことが、数年後の自分を助けます。個別の判断については、税理士や所轄の税務署にご相談ください。


