バンコクの高層コンドミニアムの写真を見ると、日本の同価格帯の物件よりずっと立派に見えます。プールやジムが付いていて、駅からも近い。海外不動産のなかでもタイが選ばれやすいのは、こうした分かりやすさと、日本からの距離の近さがあるからでしょう。
ただし、外国人がタイで持てる不動産の範囲は、法律ではっきり線が引かれています。この線を理解しないまま契約すると、思っていた権利とは違うものを手にすることになります。この記事では、制度の枠組みと、実務で問題になりやすい点を整理します。

外国人が所有できる範囲
フリーホールドで持てるのはコンドミニアムだけ
タイでは、外国人が土地を所有することは原則として認められていません。外国人が自分の名義で完全な所有権(フリーホールド)を取得できるのは、コンドミニアム法に基づく分譲マンションのユニットに限られます。戸建てやタウンハウス、一棟のアパートを土地ごと所有することはできません。
外国人枠は総床面積の49%まで
コンドミニアムであっても無制限ではありません。外国人が保有できるのは、そのコンドミニアム全ユニットの総床面積の49%までと定められています。残る51%はタイ国籍者や現地法人の枠です。
人気のあるプロジェクトでは、外国人枠がすでに埋まっていることがあります。枠が満杯の物件はフリーホールドで買えないため、リースホールドを提案されるケースが出てきます。検討している棟の外国人枠の残りは、契約前に必ず書面で確認してください。
リースホールドは最長30年
タイの法律では、不動産の賃貸借期間は最長30年と定められています。土地付き物件や外国人枠の埋まったユニットについて、この借地権(リースホールド)で保有する形が提案されることがあります。
ここで重要なのが更新の扱いです。2023年にタイの最高裁は、更新時に新たな交渉や契約締結を伴わずに30年を超えて契約関係を継続させる仕組みには法的効力がない、という判断を明確にしました。「30年+30年+30年で実質90年」といった説明を受けた場合、その延長部分が法的にどう保証されるのかを、独立した弁護士に確認する必要があります。
加えて、リースホールドの物件は売却時に買い手がつきにくい傾向があります。残存期間が短くなるほど価値は下がり、出口の選択肢は狭くなります。
フリーホールドとリースホールドの違いなど、海外不動産の権利の考え方は一冊で整理しておくと、説明を受けたときに判断しやすくなります。
購入の手続きで押さえること
資金は海外から外貨で送金する
外国人がコンドミニアムをフリーホールドで購入する場合、購入資金は海外から外貨で送金し、タイ国内の銀行でバーツに両替する必要があります。この際に発行される外貨送金証明書が、所有権移転登記の必須書類になります。
タイ国内で調達した資金や、証明書のない資金で購入しようとすると、登記の段階でつまずきます。送金のたびに証明書を確保し、書類を保管しておいてください。外国人の所有規制のもとで失敗しやすい落とし穴は、カンボジアを例にした以下の記事でもまとめています。

取得・売却にかかる費用
複数の情報源で示されている主な費目は次のとおりです。制度や税率は変更されることがあるため、取引前に現地の専門家へ最新の内容を確認してください。
| 費目 | 概要 |
|---|---|
| 移転登記費用 | 土地局評価額に対して2%。売主・買主で折半する慣行があるとされる |
| 特別事業税 | 保有期間が5年未満での売却時に課され、原則として売主負担とされる |
| 印紙税 | 物件価格または評価額の高いほうに対して課される。特別事業税を支払う場合は対象外とされる |
| 共益費・修繕積立金 | 専有面積に応じて毎月・一括で発生する |




タイ不動産投資のリスク
市況は上下する
タイの不動産市場は、供給量と需要のバランスが崩れる局面があり、記事執筆時点でも市況の厳しさを指摘する報道が見られます。「新興国だから右肩上がり」という前提は成立しません。購入するタイミングによって、成績は大きく変わります。
供給過剰とエリア間の格差
バンコク中心部や鉄道沿線には大量のコンドミニアムが供給されてきました。同じ市内でも、駅からの距離や周辺の生活環境によって賃貸の埋まり方には差が出ます。「バンコクだから借り手が付く」という粗い判断では、空室が長引きます。市況や供給の見方は国ごとに違うため、ドバイの見方と利回りの考え方は以下の記事で整理しています。



為替リスク
賃料はバーツで入りますが、円に換える段階で為替の影響を受けます。円安のときに買って円高のときに売れば、物件価格が変わらなくても円ベースでは目減りします。投資判断はバーツと円の両方で見るようにしてください。
プレビルド物件の遅延
完成前に購入するプレビルド方式は、価格面で有利な条件が示されることがあります。一方で、工期の遅れや仕様の変更、最悪の場合は事業の中断という事態も想定しておく必要があります。デベロッパーの過去の竣工実績と財務の状況を確認することが前提になります。
管理と遠隔運用
賃貸の募集、入居者対応、修繕、家賃の送金。これらを日本から自分で回すのは現実的ではないため、現地の管理会社に委託することになります。報告書のフォーマット、送金の頻度、修繕の承認ルールを、契約前に具体的に詰めておいてください。
日本側の税務
日本の居住者は、海外の不動産から得た所得も日本で申告する必要があります。国外中古建物の減価償却による赤字を他の所得と損益通算できない取り扱いについては、国税庁「No.1391 不動産所得が赤字のときの他の所得との通算」に記載があります。節税を目的に検討している方は、この前提が今も成り立つかを税理士に確認してください。
現地を見に行くときの準備
複数のエリアを歩いて比べる
資料だけでは、駅からの実際の歩きやすさや周辺の雰囲気は分かりません。同じ予算で複数のエリアを見て回ると、価格差の理由が体感できます。渡航前には外務省 海外安全ホームページで現地の情報を確認しておくと安心です。
バンコクは年間を通じて気温が高く、屋外と冷房の効いた屋内の温度差が大きい環境です。薄手の長袖シャツを1枚持っておくと体調を崩しにくく、歩き回る日には軽量のスニーカーとモバイルバッテリーがあると助かります。地図アプリと物件写真の撮影でスマートフォンの電池はすぐ減ります。
質問リストを持っていく
現地で聞くべきことを先に紙にまとめておくと、その場の雰囲気に流されずに済みます。外国人枠の残り、権利の種類、管理費の実額、周辺の募集賃料、直近の成約事例。A5サイズのノートに書き出しておき、回答をその場で埋めていく形が確実です。


タイ不動産投資に関するQ&A
Q. 利回りはどれくらい期待できますか
物件やエリア、時期によって差が大きく、日本語の情報には数年前のものも混ざっています。共益費・修繕積立金・管理委託料・空室期間を差し引いた実質で見なければ判断材料になりません。見かけた数字をそのまま前提に置かないでください。
Q. 外国人枠が埋まっている物件はどうなりますか
フリーホールドでの購入ができないため、リースホールドを提案されることがあります。その場合は期間と更新の扱い、売却時の制約を確認したうえで判断してください。所有権とは性質が異なる契約です。国ごとの外国人規制の違いは、フィリピンを扱った以下の記事で整理しています。



Q. タイ人名義や現地法人を使う方法はどうですか
名義を借りる形や、実体のない法人を使って土地を保有する仕組みが語られることがありますが、法的な問題を生じる可能性があります。提案された場合は、その仕組みが現地法上どう評価されるのかを独立した弁護士に必ず確認してください。
Q. 現地に行かずに購入できますか
手続き上は可能とされていますが、外国人枠の確認や物件の実態把握、周辺環境の見極めが難しくなります。少なくとも一度は現地を訪れ、複数物件を比較したうえで判断することをおすすめします。
Q. 住むために買うのと投資で買うのは違いますか
目的が違えば見るべき点も変わります。自分が住むなら間取りや眺望が重視されますが、貸すなら借り手にとっての利便性と、周辺の募集賃料の水準が判断軸になります。自分の好みで選んだ部屋が、借り手にとって魅力的とは限りません。
Q. バンコクとリゾート地では何が違いますか
バンコクは通勤や生活のための長期賃貸が中心になりやすく、借り手は現地で働く人が主体です。プーケットやパタヤのようなリゾート地は、観光客向けの短期貸しの比重が高く、季節や観光需要の増減に収入が左右されます。安定を重視するなら長期賃貸、観光需要に賭けるなら短期貸しという性格の違いがあり、必要な管理体制も変わります。短期貸しは清掃や鍵の受け渡しといった運用の手間が多く、任せられる業者を確保できるかどうかが前提になります。
Q. コンドミニアムの管理状態はどこを見ればいいですか
共用部の清掃状況、エレベーターの稼働、プールやジムの手入れ具合は、内見時に自分の目で確認できます。加えて、管理組合の積立金が十分にあるか、大規模修繕の計画があるかも重要です。築年数が進んだ棟で修繕積立が不足していると、後から一時金を求められることがあります。竣工から10年を超えている物件では、この点を必ず確認してください。
Q. 日本の金融機関から融資を受けられますか
海外物件に対する日本国内の金融機関の融資は限られており、現金での購入を前提に検討する方が多くなります。資金計画は諸費用と当面の運用コストまで含めて立ててください。
まとめ
タイ不動産投資では、外国人がフリーホールドで持てるのはコンドミニアムのユニットに限られ、しかも総床面積の49%という外国人枠があります。リースホールドは最長30年で、更新の法的な保証をめぐる論点も存在します。
制度を理解し、外貨送金証明書を確保し、市況とエリアの差を自分で確かめる。この3つを踏まえたうえで、家賃収入だけで成立する収支かどうかを判断してください。値上がりを前提にした計画は、市況が反転した瞬間に崩れます。


