「不動産投資では消費税の還付が受けられる」――かつては投資家のあいだで広く語られていた話です。ところが現在、居住用の賃貸物件についてはこの手法が制度上ふさぎ込まれており、当時の情報のまま動くと計画が根本から崩れます。ネット上には改正前に書かれた記事がいまも残っているため、混乱しやすい論点でもあります。
この記事では、不動産投資における消費税還付の仕組みと、現行制度で何ができて何ができないのかを整理します。還付の対象になり得るケース、手続きの流れ、そして勧誘を受けたときの見極め方まで確認していきましょう。

消費税還付とは何だったのか
預かった消費税と支払った消費税の差し引き
消費税の納税額は、売上として預かった消費税から、仕入や経費で支払った消費税を差し引いて計算します。この差し引き(仕入税額控除)の結果がマイナスになれば、その分が還付されます。建物を取得すると多額の消費税を支払うことになるため、取得した年に大きなマイナスが生じる、という構図です。
住宅の家賃は消費税がかからない
ここで壁になるのが、住宅の貸付けによる家賃は消費税が非課税とされているという点です。非課税売上に対応する仕入については、本来、仕入税額控除ができません。つまり居住用のアパートやマンションを建てても、その建築費にかかった消費税は控除できないのが原則の考え方です。詳しくは国税庁のタックスアンサー(住宅の貸付け)で確認できます。
かつて使われていた手法と、それが封じられた経緯
過去には、意図的に課税売上を作り出すことで控除を受けようとする手法が使われていました。物件に自動販売機を設置して課税売上を計上する方法、金地金の売買を繰り返して課税売上割合を操作する方法などです。国はこれらに対して段階的に規制を強め、最終的に居住用賃貸建物そのものを控除の対象外とする改正が行われました。
現行制度での取り扱い
居住用賃貸建物は仕入税額控除の対象外
令和2年度の税制改正により、住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物以外の、一定金額以上の建物(居住用賃貸建物)については、取得にかかる消費税の仕入税額控除が認められないこととされました。令和2年10月1日以後に行う仕入れが対象です。
この改正によって、居住用のアパート・マンションを建てて消費税の還付を受けるという手法は、事実上できなくなりました。「今も還付が受けられます」という説明を受けた場合は、根拠となる条文を示してもらってください。制度の内容は国税庁の消費税法基本通達(居住用賃貸建物)に整理されています。
3年以内に用途を変えた場合の調整
控除できなかった消費税が永久に切り捨てられるわけではありません。取得後の一定期間内に、その建物を住宅の貸付け以外の課税賃貸用に転用したり、第三者へ譲渡したりした場合には、控除税額を調整する仕組みが設けられています。ただし計算は複雑で、期間の判定も厳密です。該当しそうな場合は、必ず税理士に確認してください。
改正前に書かれた記事や、改正を踏まえていないセミナーの内容をもとに計画を立てると、想定していた還付が受けられず資金繰りが破綻するおそれがあります。消費税の取り扱いは頻繁に見直されるため、必ず最新の情報を税務署または税理士に確認してください。
改正の経緯や現行の考え方は、不動産の税金を扱った本で一度整理しておくと、古い情報を見分けやすくなります。

還付の対象になり得るケース
店舗・事務所などの事業用物件
住宅以外の貸付け、たとえば店舗・事務所・テナントビルの賃料は課税売上になります。課税売上に対応する仕入であれば、仕入税額控除の対象として扱われます。事業用物件であれば、従来どおりの考え方が適用されるというのが現行制度の整理です。
住居と店舗が混在する建物
1階が店舗、2階以上が住宅というような併用建物では、課税賃貸に対応する部分と住宅部分を合理的に区分できるかどうかが論点になります。区分の方法や必要な証拠資料は個別性が高く、判断を誤ると否認されるリスクがあります。設計段階から税理士を交えて検討すべき領域です。
そもそも課税事業者である必要がある
還付を受けるには、消費税の課税事業者であることが前提です。売上規模が小さい場合は免税事業者に該当することがあり、その場合は課税事業者選択届出書の提出が必要になります。この届出には提出期限があり、いったん選択すると一定期間は取りやめられないという縛りもあります。安易に選択すると、翌年以降に納税義務だけが残ることになりかねません。
知っておきたい周辺の論点
課税売上割合という考え方
消費税では、売上全体のうち課税売上が占める割合(課税売上割合)が計算に大きく影響します。この割合が高いほど控除できる金額は大きくなり、低いほど小さくなります。住宅の家賃は非課税売上なので、住居系の物件を多く持っているほどこの割合は下がります。かつての手法が課税売上割合をどう動かすかに集中していたのは、この構造があったからです。
現行制度では居住用賃貸建物そのものが控除の対象外とされたため、割合を操作しても結果は変わりません。仕組みを理解しておくと、古い提案書を読んだときに「これは今は通らない話だ」と判断できるようになります。
個人でも法人でも考え方は同じ
消費税は事業者に課される税なので、個人事業として賃貸経営を行っていても、法人で行っていても、基本的な取り扱いに違いはありません。法人にすれば還付が受けられる、といった説明を受けた場合は根拠を確認してください。法人化の判断は、法人税と所得税の税率差や経費の範囲で考えるべきものであり、消費税還付を理由にするものではありません。
土地には消費税がかからない
不動産の売買代金のうち、土地の部分には消費税がかかりません。課税されるのは建物部分だけです。売買契約書で土地と建物の内訳が明示されていない場合、固定資産税評価額などをもとに合理的に按分する必要があります。この按分の仕方によって、減価償却費も消費税の計算も変わってくるため、契約時点で内訳を確認しておくことが大切です。物件の購入時にかかる税金としては、不動産取得税の計算方法と軽減措置を以下の記事で整理しています。

手続きの流れ
事業用物件で還付の可能性を検討する場合、実務はおおむね次の順に進みます。どの段階でも判断を誤ると結果が変わるため、税理士と並走するのが前提です。
- 物件の用途と賃貸形態を確定し、課税売上に該当するかを確認する
- 課税事業者になる必要があれば、期限内に届出書を提出する
- 簡易課税を選択していないか、選択している場合は取りやめ手続きが可能かを確認する
- 取得した課税期間の消費税及び地方消費税の確定申告を行う
- 還付が生じる申告では、税務署から内容の確認を受けることがある
- 取得後の一定期間、用途の変更や譲渡があれば調整計算を行う
簡易課税を選択していると仕入税額控除の実額計算ができないため、還付そのものが受けられません。この点は見落とされやすいので、既存の届出状況を必ず洗い出してください。


勧誘を受けたときの見極め方
「消費税が還付されます」という説明を前面に出す提案には、慎重に向き合う必要があります。確認したいのは次の点です。
- 対象となる物件の用途は住宅か、それとも事業用か
- 還付の根拠となる条文や通達を示せるか
- 課税事業者の選択によって、翌年以降に生じる納税義務まで説明されているか
- 取得後の用途変更や譲渡があった場合の調整計算に触れているか
- 提案を担当している税理士の氏名が明示されているか
説明が「昔はできた話」で止まっている場合、その提案自体が古い前提で組まれている可能性があります。還付ありきで資金計画を立てると、還付が出なかった時点で計画全体が崩れます。還付は結果として生じるものであり、投資判断の主たる根拠にすべきものではありません。
資料の整理でつまずかないために
消費税の申告は、所得税や法人税の申告に比べて必要な資料が細かくなります。工事請負契約書、設計図面、賃貸借契約書、区分計算の根拠資料、届出書の控え。用途区分を説明するための資料は、後から集めようとすると本当に骨が折れます。税務署から確認の連絡が来たときに、必要な書類がすぐ出せないと対応が長引きます。
対策は、取得の段階で資料を1か所に集めておくことに尽きます。物件ごとにA4サイズのファイルボックスを分けて原本を保管し、両面同時読み取りに対応したScanSnap iX1600のようなドキュメントスキャナーで契約書をPDF化しておく。帳簿についてはマネーフォワード クラウド会計やfreee会計のようなクラウド会計ソフトを使い、課税・非課税の区分を取引の入力時点で付けていくと、期末にまとめて仕分ける手間が消えます。消費税の考え方そのものを押さえたい方は、税務の実務書を1冊手元に置いておくと、税理士との打ち合わせが早く進みます。


よくある質問
Q. 中古のアパートを買った場合はどうなりますか
居住用として貸す前提であれば、建物部分にかかる消費税について仕入税額控除の制限が適用される考え方は同じです。なお、個人が売主となる中古住宅の売買では、そもそも建物部分に消費税が課されないケースもあります。取引の形態によって結論が変わるため、契約前に確認してください。
Q. 民泊や貸別荘なら還付を受けられますか
旅館業法にもとづく営業や、貸付期間が短期のものは住宅の貸付けに該当しないと整理される場合があります。ただし、実態がどう判断されるかは運営形態次第です。営業許可の種類、契約期間、サービスの内容などを総合して判断されるため、事前に税務署や税理士へ確認するのが確実です。
Q. 駐車場の賃料は課税売上ですか
設備の整った駐車場の貸付けは課税取引として扱われるのが一般的ですが、住宅に付随する駐車場で一定の条件を満たすものは住宅の貸付けに含めて扱われることがあります。条件の判定は細かいため、個別に確認が必要です。
Q. インボイス制度は関係しますか
仕入税額控除を受けるには、原則として適格請求書(インボイス)の保存が必要です。取引先が適格請求書発行事業者かどうかで控除の可否に影響が出る場面があります。建物の取得のような大きな取引では、契約前に相手方の登録状況を確認しておきましょう。
Q. 過去に還付を受けた物件を売る場合は注意点がありますか
取得から一定の期間内に譲渡した場合、控除した税額の調整が必要になることがあります。売却のタイミングによって納税額が変わるため、売却を検討し始めた段階で税理士に相談してください。売却ではなく家族への贈与で物件を移す場合の税金の考え方は、以下の記事でまとめています。



まとめ
不動産投資における消費税還付は、令和2年度の税制改正によって居住用賃貸建物が仕入税額控除の対象外とされ、住居系の物件では原則として受けられなくなりました。ネット上には改正前の情報が数多く残っているため、古い記事を根拠に判断しないよう注意してください。
還付の可能性が残るのは、店舗や事務所といった課税賃貸を行う事業用物件です。ただしその場合も、課税事業者の選択、簡易課税の状況、取得後の用途変更に伴う調整といった論点が絡み、判断は簡単ではありません。還付を投資判断の主たる根拠にせず、賃貸事業として成り立つかどうかで物件を選ぶ。そのうえで、消費税の取り扱いは必ず税理士または所轄の税務署に確認してから進めてください。


