所有している物件を民泊として貸し出したら、どれくらいの収益になるのか。賃貸に出した場合の家賃と比べて、本当に見合うのか。この判断をするには、売上の作り方と経費の中身を分けて考える必要があります。
民泊の収支は、賃貸経営とはまったく違う形をしています。毎月決まった家賃が入るのではなく、稼働日数と単価の掛け算で売上が決まり、そこから運営コストが差し引かれます。しかも、営業できる日数に上限が設けられている場合があります。この記事では、収益をどう計算するか、どこに落とし穴があるかを整理します。

まず、どの制度で運営するかを決める
収益の計算をする前に、営業の根拠となる制度を確認する必要があります。日数の上限が変わるため、ここが売上の天井を決めてしまいます。
| 制度 | 手続き | 営業日数の上限 |
|---|---|---|
| 住宅宿泊事業法(民泊新法) | 届出 | 年間180日以内 |
| 旅館業法(簡易宿所営業) | 許可 | 上限なし |
| 国家戦略特区(特区民泊) | 認定 | 上限なし(最低宿泊日数あり) |
180日ルールの数え方
住宅宿泊事業法では、宿泊させることができる日数が年間180日以内に制限されています。この1年は暦年ではなく、毎年4月1日正午から翌年4月1日正午までで区切られます。制度の詳細は法令と観光庁のポータルで確認できます(e-Gov法令検索 住宅宿泊事業法、観光庁 民泊制度ポータルサイト)。
さらに、自治体が条例で日数や区域をさらに制限している場合があります。住居専用地域では平日の営業を認めない、といった上乗せ規制です。物件の所在地の条例を確認しないまま計算しても、その数字には意味がありません。
分譲マンションの一室で民泊を始めるには、管理規約で禁止されていないことが前提です。多くのマンションでは規約により民泊が認められていません。届出の際にも規約の写しの提出を求められます。
民泊の制度や開業の流れは、一冊で整理しておくと、物件ごとに確認すべき点を把握しやすくなります。
収益シミュレーションの計算式
売上の作り方
民泊の売上は、次の形で考えます。
年間売上 = 1泊あたりの宿泊料金 × 年間の稼働日数 + 清掃料金として受け取る分。稼働日数は「営業可能日数 × 稼働率」で求めます。180日の上限がある場合、稼働率が100%でも180日が天井になります。
ここで大事なのは、営業可能日数と実際に埋まる日数は別物だという点です。平日と休日、繁忙期と閑散期で埋まり方は大きく変わります。年間を通じた平均の稼働率を、控えめに置いて計算してください。
経費として見込むもの
民泊は宿泊業なので、賃貸経営より経費の項目が多くなります。試算では次を漏らさないようにします。
| 費目 | 内容 |
|---|---|
| 清掃費 | 1組ごとに発生。回転が多いほど積み上がる |
| 運営代行・管理委託料 | 売上に対する割合で設定されることが多い |
| 予約サイトの手数料 | 各サイトの料金体系による |
| 水道光熱費 | 宿泊者が使う分。夏冬は増える |
| 通信費 | インターネット回線は必須 |
| 消耗品・アメニティ | 寝具、タオル、洗剤、備品の補充 |
| リネン費 | 外部に出す場合は枚数単価 |
| 保険料 | 施設賠償責任保険など |
| 固定資産税・都市計画税 | 所有物件の場合 |
| 賃料 | 転貸で運営する場合 |
| 減価償却費 | 建物と家具家電の取得費 |
予約サイトの手数料は、事業者ごとに料金体系が異なり、見直しも行われています。試算に使う前に、利用するサイトの最新の条件を確認してください。
比較すべきは「普通に賃貸に出した場合」
試算ができたら、同じ物件を通常の賃貸に出した場合の年間家賃と並べます。民泊のほうが手取りは大きくなる可能性がありますが、そのぶん手間もリスクも増えます。差額が、追加の手間とリスクに見合うかどうかが判断の軸になります。

シミュレーションで外しやすいポイント
稼働率を高く見積もりすぎる
提案資料の稼働率が高い数字になっていたら、その根拠を確認してください。同じ市内でも、駅からの距離、観光地へのアクセス、部屋の広さで稼働はまったく変わります。開業直後はレビューが少ないため、単価を下げないと埋まらない期間もあります。
清掃費を1泊あたりで計算してしまう
清掃は宿泊数ではなく、宿泊する組の数だけ発生します。1泊の予約が続けば清掃回数が増え、連泊なら減ります。同じ稼働日数でも、予約の入り方によって利益が変わります。単価の安い1泊予約ばかりだと、清掃費で利益が消えることもあります。
初期費用を織り込まない
家具家電、寝具、消防設備、届出のための図面作成、標識の設置。開業までにまとまった費用がかかります。回収期間を計算するには、この初期費用を分母に入れる必要があります。届出の流れや初期費用の全体像は、以下の記事で解説しています。

季節変動を平準化してしまう
年間の平均で計算すると、閑散期のキャッシュフローが見えなくなります。月ごとに分けて試算し、赤字になる月があってもしのげるかを確認してください。
運営で実際に手がかかる部分
数字の話とは別に、民泊は運営の負担が大きい事業です。チェックイン対応、清掃の手配、備品の補充、宿泊者からの問い合わせ、そして近隣からの苦情対応。チェックアウトからチェックインまでの数時間で、清掃とリネン交換を終える必要があります。自分でやろうとすると、この時間帯に予定が組めなくなります。
家主が居住していない物件では、住宅宿泊管理業者への委託が義務付けられています。自分でやるかどうかを選べる話ではない点は、押さえておいてください。
設備面では、通信環境が評価に直結します。宿泊者は到着してすぐWi-Fiに接続するため、ここが遅いとレビューに響きます。TP-LinkのArcher AXシリーズのようなWi-Fi 6対応のルーターを入れ、電波の届きにくい部屋には中継機を追加しておくと安心です。
鍵の受け渡しは運営の要です。SwitchBotのスマートロックとキーパッドのように予約ごとに暗証番号を発行できる仕組みがあれば、現地で待ち合わせる必要がなくなります。電池切れの通知を受け取れるようにしておくことと、締め出しに備えた予備の手段を用意しておくことは忘れないでください。
備品では、宿泊者の満足度に効くものと、そうでないものがはっきり分かれます。Ankerの65W出力に対応したUSB充電器や、各ベッドの枕元にある電源は、あると必ず使われる部分です。空気の状態が気になる季節にはシャープのプラズマクラスター空気清浄機のような製品を置いておくと、室内の印象が変わります。清掃を自分で行う日があるなら、コードレスのスティック掃除機を現地に常備しておくほうが移動が楽になります。


需要をどう読むか
宿泊需要は地域差が大きく、同じ都道府県でも市区町村によって様子が違います。観光庁が公表している宿泊旅行統計調査では、都道府県別の延べ宿泊者数や客室稼働率が確認できます(観光庁 宿泊旅行統計調査)。
あわせて、実際の予約サイトで周辺の物件がいくらで出ているか、直近の空室状況がどうなっているかを見てください。公的な統計で全体の流れを掴み、予約サイトで足元の価格を確認するという二段構えが、現実的な数字を作る近道です。
試算の前に集めておきたい情報
数字を組み立てる作業そのものは難しくありません。難しいのは、その数字の前提となる情報を集めることです。ここが雑だと、どれだけ丁寧に計算しても結果は当てになりません。
物件が置かれた条件
用途地域、条例による制限、管理規約の内容、そして建物の構造と面積。この4つで、そもそも営業できるかどうかと、必要な消防設備の水準が決まります。面積や階数によっては、自動火災報知設備の設置が求められます。工事の見積もりを取るまで、初期費用は確定しません。
周辺の宿泊単価と稼働の実態
予約サイトで同じエリア、同じ人数規模の物件を10件ほど拾い、平日と休日の価格、そして向こう1か月の空き状況を記録します。特定の週だけ見ると偏るので、時期をずらして2回は確認してください。開業直後は既存の物件より安く出さないと選ばれにくい、という前提も入れておきます。
運営代行会社の条件
委託する場合は、料金の算定方法(売上に対する割合か定額か)、清掃費が委託料に含まれるのか別途か、緊急時の対応範囲、そして解約の条件を確認します。同じ「代行手数料20%」でも、含まれる業務の範囲が会社ごとに違います。金額だけを比べても意味がありません。
民泊の収益に関するよくある質問
Q. 180日の上限がある中で、収益を確保するにはどうすればよいですか?
営業できる日を繁忙期に寄せ、単価を高く設定できる時期に集中させるという考え方があります。閑散期に無理に稼働させるより、需要のある時期に日数を使うほうが売上は伸びます。ただし、日数を使い切る前提の計画は、予約が入らなかったときに崩れます。控えめな稼働率で試算してください。
Q. 旅館業法の許可を取れば日数制限はなくなりますか?
簡易宿所営業の許可を取得すれば日数の上限はありません。ただし、用途地域の制限、建築基準法上の用途、消防設備の要件などが民泊新法より厳しくなります。フロント設置の扱いも自治体によって運用が異なるため、保健所と消防署への事前相談が欠かせません。許可の取り方から収支の考え方までは、ゲストハウスの運営を扱った以下の記事も参考になります。



Q. 利回りはどのくらいになりますか?
民泊の収益は立地、稼働率、単価、運営体制によって大きく変わります。同じ物件でも運営の巧拙で結果が変わる事業なので、他人の数字をそのまま当てはめないでください。自分の物件で、控えめな稼働率と実際の経費を入れた数字を作ることが先です。
Q. 賃貸中の物件を民泊に転用できますか?
自分が所有する物件であれば、法令と条例、管理規約の範囲内で可能です。借りている物件を又貸しする形(転貸)で運営する場合は、賃貸借契約で転貸が認められていることと、貸主の承諾が必要です。無断で行うと契約解除の理由になります。
Q. 近隣トラブルはどう防げばよいですか?
ゴミ出しのルール、深夜の騒音、共用部の使い方。この3つが苦情の中心です。多言語での案内表示、宿泊者への事前連絡、そして苦情を受ける連絡先の掲示が基本的な対策になります。届出の際に周辺住民への周知を求める自治体もあります。
Q. 確定申告はどうなりますか?
民泊による所得は、規模や実態によって不動産所得ではなく雑所得や事業所得として扱われる場合があります。賃貸とは扱いが異なる可能性があるため、開業前に税理士へ確認しておくと安心です。消費税の取り扱いも、売上規模によって関係してきます。
Q. 開業までにどのくらいの期間がかかりますか?
物件の条件が整っていて、消防設備の工事が不要な場合でも、届出の準備と受理、家具家電の搬入、写真撮影と掲載準備で数か月を見ておくのが現実的です。消防や建築の手続きが必要になると、さらに時間がかかります。この準備期間中も固定費は出ていくため、その分を資金計画に入れておいてください。
Q. 家主居住型と家主不在型では収益がどう変わりますか?
家主居住型は自宅の一部を貸す形で、清掃や対応を自分で行えるため運営コストを抑えられます。ただし貸せる部屋数が限られ、売上の上限は低くなります。家主不在型は物件を丸ごと貸せるぶん売上は大きくなりますが、住宅宿泊管理業者への委託が必要となり、その費用が乗ります。どちらが手残りが多いかは、物件の規模と単価によって変わります。
まとめ
民泊の収益シミュレーションは、まずどの制度で運営するかを決め、営業可能日数の上限を確認するところから始まります。売上は単価と稼働日数の掛け算で決まり、そこから清掃費、運営委託料、予約サイトの手数料、光熱費、消耗品費などを差し引いて手残りを出します。
外しやすいのは、稼働率を高く見積もること、清掃費を宿泊数で計算してしまうこと、そして初期費用を分母に入れ忘れることです。試算ができたら、同じ物件を通常の賃貸に出した場合と比べてみてください。手間とリスクの差に見合う金額かどうかが見えてきます。収益は立地と運営によって大きく変わるものなので、提案資料の想定値をそのまま信じないようにしてください。




