相続した実家が空き家のまま何年も経っている、という話は珍しくありません。売るには思い出があって踏み切れない、かといって住む予定もない。その間も固定資産税は毎年かかり、庭は伸び、郵便受けにはチラシが溜まっていきます。
こうした空き家を賃貸に回して収益化するという選択肢は、以前より現実味を帯びてきました。制度面の整備が進み、放置し続けることの負担が明確に重くなったためです。この記事では、空き家を賃貸として活用するまでの流れ、かかる費用の考え方、そして活用以外の選択肢までを整理します。

空き家を放置するとどうなるのか
管理不全空家という区分ができた
空家等対策の推進に関する特別措置法は改正法が2023年12月13日に施行され、それまでの「特定空家」に加えて「管理不全空家」という区分が設けられました(e-Gov法令検索 空家等対策の推進に関する特別措置法)。特定空家になるおそれがある状態の空き家が対象です。
ここが重要な点なのですが、管理不全空家として勧告を受けると、土地の固定資産税の住宅用地特例が適用されなくなります。住宅が建っている土地は課税標準が軽減されていますが、その軽減が外れるため税負担が跳ね上がります。「建物を残しておけば税金が安い」という従来の考え方が通用しなくなったわけです。
建物は使わないほど傷む
人が住まない家は、住んでいる家より早く傷みます。換気がされないため湿気がこもり、水を流さないため排水トラップが乾いて臭いが上がってくる。畳や建具にカビが出て、そのまま数年放置すると賃貸に出せる状態に戻すコストが跳ね上がります。
遠方の実家を管理している方からは、月に一度の換気と草刈りのために片道数時間かけて通っている、という話をよく聞きます。時間も交通費もかかるうえに、行くたびに新しい傷みが見つかるという消耗の仕方をします。行く回数を減らすなら、湿気対策として空気を動かす仕組みだけは残しておきたいところです。タイマー付きの換気扇や、アイリスオーヤマのサーキュレーターを通電したままにしておくといった対処で、状態の悪化速度は変わってきます。
空き家の活用方法にはどんな選択肢があるか
賃貸に出す前に、他の選択肢も並べて比べておきましょう。物件の状態と立地によって、向いている出口が変わります。
| 活用方法 | 向いているケース | 初期費用の重さ |
|---|---|---|
| 戸建て賃貸として貸す | ファミリー需要のある住宅地 | 中(修繕の程度による) |
| DIY型賃貸借で貸す | 手を入れる余力がない、自分で直したい借主がいる | 小 |
| 売却する | 維持の意思がない、遠方にある | なし |
| 解体して土地活用 | 建物の傷みが激しい、立地が良い | 大(解体費) |
| 空き家バンクへ登録 | 地方にあり、地元の借り手を探したい | 小 |
戸建て賃貸として貸す
代表的な活用方法です。ファミリー層向けの戸建て賃貸は供給が少ない地域も多く、同じ広さのアパートより長く住んでもらいやすいという特徴があります。ペット可や庭付きといった条件を打ち出せるのも戸建てならではです。
DIY型賃貸借という方法
借主が自分の費用と責任で改修を行うことを認める代わりに、賃料を抑えて貸す形態です。貸主側は修繕費の負担を軽くでき、借主は自分好みの空間を作れます。原状回復の範囲を契約時にどう定めるかが要になるため、国土交通省が公表している契約書式や解説を参照しながら進めるのが安全です。
空き家バンクを使う
自治体が運営する空き家バンクは、地方の物件で移住希望者とつながる数少ない経路になります。登録は無料であることが多く、自治体によっては改修費の補助制度と組み合わせられます。ただし成約までの期間は読めません。
表の「売却する」と、貸す場合の収支を比べるには、まず売ったらいくらくらいになりそうかを知っておくと判断しやすくなります。リビンマッチは、一戸建てや土地の情報を入力すると最大6社に無料で売却査定を依頼できるサービスで、同じサイトに土地活用や賃貸管理の一括依頼も用意されています。査定額は各社の見立てで、売却価格を約束するものではありません。



空き家を賃貸に出すまでの手順
手順1|権利関係を整理する
相続した空き家の場合、まず登記名義を確認します。相続登記は申請が義務化されており、正当な理由なく期限内に申請しないと過料の対象になり得ます(法務省 相続登記の申請義務化)。名義が故人のままでは貸すことも売ることもできません。
兄弟で共有になっている場合は、賃貸に出す判断を誰がするのかを先に決めておく必要があります。共有物件は、後から意見が割れると身動きが取れなくなります。
手順2|建物の状態を診断する
雨漏り、シロアリ、基礎のひび割れ、傾き、給排水管の状態。この5点は素人目では判断がつきにくく、費用への影響が大きい部分です。既存住宅状況調査(インスペクション)を依頼して、修繕の必要範囲を把握してから予算を組むのが安全です。
あわせて建築時期も確認します。1981年5月31日以前に建築確認を受けた建物は旧耐震基準で建てられており、耐震性の評価が必要になる場面があります。
手順3|どこまで直すかを決める
ここが費用と収益の分かれ目です。全面リフォームすれば貸しやすくなりますが、回収に何年かかるかを計算しないと投資として成立しません。逆に最低限の修繕だけで貸すなら、賃料は抑えることになります。
優先度が高いのは、水回り・雨漏り・給湯器・鍵といった「生活が成り立つかどうか」に直結する部分です。壁紙の色や照明のデザインは、その後の話になります。
手順4|手を入れられる範囲は自分でやるという選択
職人に頼む部分と自分でやる部分を分けると、費用は変わります。壁紙の張り替えや室内塗装は、時間さえ確保できれば自分でも進められる領域です。サンゲツの生のり付き壁紙のようにのり付きで届く商品を使えば、道具は撫でバケとカッター、地ベラ程度で足ります。木部や鉄部の塗装ならアサヒペンの水性スーパーコートが扱いやすく、匂いも油性ほど強くありません。
建具の調整や棚の設置には電動工具が要ります。マキタの充電式インパクトドライバ TD173Dのような一台があると作業が進みますし、他の物件でも使い回せます。外構やブロック塀の汚れ落としにはケルヒャーの高圧洗浄機 K3 サイレントが使えます。第一印象は写真で決まるので、外回りをきれいにする効果は小さくありません。
電気配線とガス、給排水の本管に関わる工事は資格が必要です。自分でやろうとせず、必ず有資格の業者に依頼してください。
手順5|賃料を決めて募集する
周辺の戸建て賃貸の募集事例を集め、広さ・築年数・駐車場の有無で比較します。地方では駐車場が2台分あるかどうかで反響がはっきり変わります。戸建ては比較対象が少ないため、アパートの相場をそのまま当てはめると外れます。地元の管理会社に査定を依頼し、複数の意見を聞くのが確実です。
手順6|管理体制を決める
自主管理にするか、管理会社に委託するか。遠方に住んでいる場合は委託が現実的です。入居中のトラブル対応、退去時の立ち会い、家賃の集金までを任せられます。委託料は賃料に対する割合で設定されるのが一般的です。


貸し出す前にそろえておきたい設備と備品
空き家をそのままの状態で募集に出すと、内見でつまずきます。実際に見に来た人が気にするのは、間取りよりも「今日から生活できそうかどうか」です。給湯器・エアコン・網戸・鍵の4点は、費用対効果が読みやすい投資先になります。
長く空いていた家では、エアコンが撤去済みだったり、そもそも設置されていなかったりします。全部屋に入れる必要はありませんが、少なくともリビングと寝室にあたる部屋には用意しておきたいところです。省エネ性能を重視するなら、各社の上位機種より、ダイキンや三菱電機のスタンダードモデルを必要な部屋数だけ入れるほうが、賃貸用としては現実的な選択になります。
湿気の残る家では、引き渡し前の乾燥と消臭も必要です。押し入れや床下に近い部屋の湿気にはコンプレッサー式の除湿機が効率的で、梅雨時期の内見前に数日回しておくだけでも室内の印象が変わります。網戸の張り替えはダイオ化成の網戸張替キットのような材料一式で自分でも対応できる作業です。
鍵は入居前に必ず交換してください。前の居住者や工事業者が合鍵を持っている可能性を排除できないためです。玄関の施解錠を記録したいならSwitchBotのスマートロックのような後付けの製品もありますが、賃貸として貸し出す場合は電池切れの対応を誰が行うかまで決めてから導入してください。
費用と税金で押さえておきたいこと
修繕費と資本的支出の違い
同じ工事でも、原状回復にあたる修繕費はその年の経費になり、建物の価値を高める資本的支出は減価償却を通じて数年に分けて経費化されます。どちらに区分されるかで、初年度の手残りが大きく変わります。判断が難しい部分なので、規模の大きい工事をする前に税理士へ相談しておくと安心です。
売却する場合の特例
賃貸ではなく売却を選ぶ場合、相続した空き家の売却には譲渡所得から一定額を控除できる特例が設けられています。適用には、建築時期、被相続人が亡くなる直前に一人で住んでいたこと、耐震基準を満たすか取り壊すこと、といった要件があり、適用期限も定められています。要件は細かいため、国税庁の解説で最新の内容を確認してください(国税庁 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例)。
相続した空き家を貸すか売るかで迷っているなら、売却した場合の査定を先に取って比べる方法もあります。いえカツLIFEは、相続で生じた物件や空き家を含め、仲介・業者買取・リースバックの査定を一度の入力で取り寄せられる一括査定サービスです。査定は無料と案内されています(東京・埼玉・神奈川・千葉・大阪・群馬・兵庫・茨城・栃木の物件を想定)。



自治体の補助制度
空き家の改修費や解体費に補助を出している自治体は多くあります。金額も条件も自治体ごとに異なり、年度ごとに予算枠が決まっているのが通例です。工事の契約前に申請が必要な制度がほとんどなので、動き出す前に役所の担当窓口へ確認してください。
空き家の活用に関するよくある質問
Q. 家財道具が残ったままですが、どうすればよいですか?
賃貸に出すには基本的に全て撤去します。遺品整理業者に依頼するのが一般的で、費用は物量と間取りによって変わります。売却の際も同様で、残置物があると買い手が付きにくくなります。仏壇や神棚がある場合は、地域の慣習に沿った処分方法を確認しておいてください。
Q. 貸したあと、自分が住みたくなったら戻れますか?
普通借家契約では、貸主の都合で退去してもらうには正当事由が必要で、簡単ではありません。将来自分や家族が使う可能性があるなら、期間を定めて終了する定期借家契約を検討してください。賃料はやや抑えめになる傾向がありますが、期間満了で確実に返ってくる点は大きな違いです。
Q. どのくらいの利回りが見込めますか?
空き家の賃貸は、取得費が実質ゼロ(相続)で修繕費のみという状態から始められる場合があり、その場合は高い数字が出ることもあります。ただし実際の利回りは修繕範囲や立地、家賃相場、空室期間によって大きく変わります。修繕費と諸費用を分母に入れ、空室期間と将来の修繕を差し引いた形で計算してください。
Q. 借り手が見つからない地域なのですが
需要が薄い地域では、賃貸にこだわらず売却や解体も含めて検討する必要があります。地域によっては、賃料を大きく下げても借り手が現れないことがあります。空き家バンクへの登録、地元の企業の社宅需要、移住支援制度との組み合わせなど、地域特有の経路を探るのも手です。
Q. 火災保険はどうなりますか?
空き家は「住宅物件」ではなく「一般物件」として扱われ、保険料が高くなったり引き受け条件が変わったりする場合があります。賃貸に出すと扱いがまた変わるため、契約中の保険会社に用途変更を必ず伝えてください。伝えていないと、いざというときに支払われない可能性があります。
Q. 近隣から草木の苦情が来ています
越境した枝葉は、まず所有者として対処すべき事柄です。管理不全空家の判断材料にもなり得ます。遠方で頻繁に通えないなら、地域のシルバー人材センターや空き家管理サービスに定期巡回を依頼する方法があります。月額の費用はかかりますが、苦情対応に追われるより負担は軽くなります。
まとめ
空き家の活用は、権利関係の整理から始まり、建物の状態診断、修繕範囲の決定、募集、管理体制の構築という順で進みます。制度面では管理不全空家という区分ができ、放置し続けることの負担が重くなりました。動き出すなら早いほうが選択肢は多く残ります。
貸すか、売るか、解体するか。答えは物件の状態と立地で変わります。共通して言えるのは、修繕にかかる金額を先に出し、それを回収できる家賃が取れるかどうかで判断するということです。感覚で工事を始めると、回収の見込みが立たないまま費用だけが積み上がります。数字を並べてから決めてください。


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