物件の決済が終わって、いよいよ賃貸経営がスタート。ここで多くの方が「開業届って出さないといけないの?」という疑問にぶつかります。会社員として給与をもらいながら物件を1室持っただけで「開業」と言われても、ぴんとこないのが正直なところでしょう。
結論から言えば、不動産の貸付けによって継続的に収入を得る以上、開業届の提出対象になります。そして開業届そのものより重要なのが、同じタイミングで出しておきたいもう1枚の書類です。ここを外すと、その年の税制上の取扱いが変わってしまいます。
この記事では、不動産投資における開業届の出し方を、記入項目・提出期限・提出方法・あわせて出す書類という流れで解説します。書類の書き方で迷いやすい欄についても、具体的に触れていきます。

開業届とは何か
正式名称は「個人事業の開業・廃業等届出書」
開業届は、個人が新たに事業を始めたことを税務署に知らせるための書類です。正式名称は「個人事業の開業・廃業等届出書」といいます。手続きの概要は国税庁の「A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続」のページに掲載されており、様式のPDFもここからダウンロードできます。
提出期限は、事業の開始等の事実があった日から1か月以内とされています。ただし、期限を過ぎたからといって罰則が定められているわけではありません。気づいた時点で提出すれば受け付けてもらえます。
事業的規模でなくても提出できる
不動産所得には「事業的規模かどうか」という判定がありますが、開業届の提出そのものは、いわゆる5棟10室基準を満たしていなくても可能です。区分マンション1室からの賃貸経営でも、届出を出している方は多くいます。
新たに事業を始めたときに必要となる届出については、国税庁のタックスアンサー「No.2090 新たに事業を始めたときの届出など」にまとめられています。
開業届の書き方|迷いやすい欄を解説
基本情報の欄
| 記入欄 | 書き方 |
|---|---|
| 提出先の税務署 | 納税地を所轄する税務署名を記入 |
| 納税地 | 原則は住所地。事業所を納税地にすることも可能 |
| 氏名・生年月日 | 戸籍どおりに記入 |
| 個人番号 | マイナンバーを記入 |
| 職業 | 「不動産賃貸業」と記入するのが一般的 |
| 屋号 | 任意。空欄でも問題ない |
納税地を自宅住所にしておくと、税務署からの郵便物が自宅に届きます。会社員の方で自宅に届くのを避けたい事情がある場合でも、納税地は原則として住所地とされているため、扱いに迷うときは税務署に相談してください。
開業から申告までの流れは、不動産の確定申告を扱った本で一度押さえておくと、書類の準備を進めやすくなります。
届出の区分と開業日
「届出の区分」は「開業」にチェックを入れます。相続で事業を引き継いだ場合は、被相続人の住所・氏名を記入する欄があります。
開業日は、賃貸経営を始めた日を記入します。物件の引渡日(決済日)や、最初の家賃入金があった日を開業日とするケースが一般的ですが、明確な決まりがあるわけではありません。判断に迷う場合は税務署に確認しておくと安心です。この日付が青色申告承認申請書の期限に影響するため、適当に書かないようにしてください。
事業の概要
「アパート(〇棟〇室)の賃貸」「区分マンション〇室の賃貸」といった形で、実態が分かるように簡潔に書きます。長文を書く必要はありません。
「開業・廃業に伴う届出書の提出の有無」欄
ここに、青色申告承認申請書を提出するかどうかのチェック欄があります。青色申告を選ぶなら「有」にチェックを入れ、青色申告承認申請書も一緒に提出します。青色申告そのもののメリットや手続きは、以下の記事でやさしくまとめています。

「給与等の支払の状況」欄
家族や従業員に給与を支払う予定がなければ、空欄または「なし」で構いません。青色事業専従者給与を検討している場合は、別途「青色事業専従者給与に関する届出書」の提出が必要になります。




あわせて提出したい書類
所得税の青色申告承認申請書(最重要)
開業届よりも、実はこちらのほうが期限に厳しい書類です。提出期限は次のとおりです。
- その年の1月16日以後に事業を開始した場合:事業開始の日から2か月以内
- それ以前から事業を行っている場合:青色申告をしようとする年の3月15日まで
この期限を1日でも過ぎると、その年分は白色申告となり、青色申告の適用は翌年分からになります。青色申告特別控除や純損失の繰越控除といった取扱いを1年分見送ることになるため、影響は小さくありません。手続きの詳細は国税庁の「A1-8 所得税の青色申告承認申請手続」で確認できます。
その他、状況に応じて必要な書類
| 書類名 | 提出が必要な場面 |
|---|---|
| 青色事業専従者給与に関する届出書 | 家族に給与を支払う場合(事業的規模が前提) |
| 給与支払事務所等の開設届出書 | 従業員や専従者に給与を支払う場合 |
| 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 | 源泉徴収税額の納付を年2回にまとめたい場合 |
| 所得税の減価償却資産の償却方法の届出書 | 法定の償却方法以外を選びたい場合 |
| 事業開始等申告書 | 都道府県・市区町村へ提出(個人事業税に関するもの) |
最後の「事業開始等申告書」は税務署ではなく都道府県の税事務所などに提出するもので、名称や様式は自治体によって異なります。税務署に開業届を出しただけでは完結しない場合があるため、お住まいの自治体のサイトを確認してください。


提出方法は3つ
1. 税務署の窓口に持参する
その場で不明点を質問できるのが利点です。本人確認書類(マイナンバーカード、または通知カード+運転免許証など)を忘れずに持参してください。なお、令和7年1月から、税務署では申告書や届出書の控えへの収受日付印の押なつが行われなくなりました。希望すると、提出年月日と税務署名を記載したリーフレットを受け取れる取扱いになっています。
2. 郵送する
平日に窓口へ行けない方向けの方法です。届出書の原本と控え、本人確認書類の写し、返信用封筒(切手を貼付)を同封して送ります。こちらも収受日付印は押されないため、提出した事実を後から確認したい場合は、税務署の閲覧サービスや保有個人情報の開示請求といった方法によることになります。手元に日付の記録を残したいなら、特定記録郵便や簡易書留で発送し、その控えを保管しておくのが実務的です。
3. e-Taxで送信する
自宅から完結できる方法です。マイナンバーカードと、マイナンバーカードの読み取りに対応したスマートフォンまたはICカードリーダーが必要になります。会計ソフトの開業届作成機能を使うと、質問に答えていくだけで書類が完成するため、初めての方でも迷いにくいでしょう。「freee開業」「マネーフォワード クラウド開業届」といった無料で使えるサービスもあります。
開業届の控えは、金融機関で屋号付き口座を開設するときや、各種申請の際に提出を求められることがあります。物件関係の書類と一緒にA4サイズのファイルボックスへ入れて保管しておいてください。書類が増えてきたら、両面同時読み取りに対応したドキュメントスキャナで電子化しておく方法もあります。
開業届を出すとどうなるのか
青色申告への道が開ける
最大の意味はここにあります。青色申告特別控除、純損失の繰越控除、青色事業専従者給与、少額減価償却資産の特例といった取扱いは、青色申告の承認が前提です。開業届と青色申告承認申請書はセットで出すものと考えておくのが実務的です。
屋号付きの口座を作れる
金融機関によっては、開業届の控えを提示することで屋号付きの銀行口座を開設できます。賃貸経営用の入出金を生活用と分けられるため、記帳が格段に楽になり、家事按分が必要な費目も減ります。
開業届を出して青色申告に進む場合、その後の記帳と申告書づくりに使う会計ソフトを決めておくと安心です。マネーフォワード クラウド確定申告は、公式サイトで青色申告・白色申告の両方に対応し、不動産所得を入力して青色申告決算書や確定申告書を作成できると案内されています。1か月間の無料トライアルはクレジットカードの登録なしで始められます。



会社員の方が気にすべき点
会社員の方から「開業届を出すと会社にバレるのでは」という質問をよく受けます。開業届の提出自体が勤務先に通知されることはありません。ただし、住民税の徴収方法によって、勤務先に給与以外の所得があることが伝わる可能性はあります。確定申告書で住民税の納付方法を選択できますが、自治体の運用によって扱いが異なるため、お住まいの市区町村にご確認ください。
また、勤務先の就業規則で兼業が制限されている場合もあります。届出の前に、就業規則の確認もしておきましょう。
開業届を提出すると、状況によっては失業給付や健康保険の扶養の取扱いに影響が及ぶ場合があります。これらは税務ではなく社会保険・雇用保険の分野の話になるため、該当しそうな方はハローワークや加入している健康保険組合にご確認ください。


よくある質問(Q&A)
Q. 開業届を出さないとどうなりますか?
A. 提出しなかったことに対する罰則は定められていません。ただし、青色申告を行うには青色申告承認申請書の提出が必要であり、実務上は開業届とセットで提出するのが一般的な流れです。
Q. 開業日を過去にさかのぼって書けますか?
A. 実態に合った日付を記入するのが原則です。実際の開業日より後に提出することになっても、期限を過ぎた旨を伝えて提出すれば受け付けてもらえます。
Q. 区分マンション1室でも出すべきですか?
A. 青色申告を検討しているなら出しておく意味があります。事業的規模でなくても、10万円の青色申告特別控除や純損失の繰越控除は使えます。
Q. 屋号は付けたほうがいいですか?
A. 任意です。屋号付き口座を作りたい場合や、対外的な名称が必要な場合に検討してください。後から変更することもできます。
Q. 物件を追加購入したら、また開業届が必要ですか?
A. すでに不動産賃貸業として届出をしていれば、物件が増えるたびに再提出する必要はありません。ただし、事業的規模になったタイミングで検討すべき手続きが出てくる場合があります。
Q. 提出書類の書き方が分かりません。
A. 所轄の税務署に電話で相談できます。確定申告期(2月〜3月)は混み合うので、それ以外の時期のほうが落ち着いて聞けます。会計ソフトの開業届作成機能を使うのも手です。
Q. 法人化する場合はどうなりますか?
A. 個人での事業を廃止して法人に移行する場合、廃業届の提出など別の手続きが必要になります。移行のタイミングや方法によって取扱いが変わるため、税理士に相談してください。
まとめ
- 開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)は事業開始から1か月以内に所轄税務署へ
- 職業欄は「不動産賃貸業」、屋号は任意。開業日は決済日や初回入金日を基準に
- 本命は青色申告承認申請書。1月16日以後の開業なら2か月以内、それ以外は3月15日まで
- 都道府県への事業開始等申告書が別途必要な場合がある
- 提出方法は窓口・郵送・e-Taxの3つ。控えは必ず保管する
- 屋号付き口座を作ると、賃貸経営の入出金を分離できて記帳が楽になる
開業届自体は難しい書類ではありません。つまずくとしたら、青色申告承認申請書の期限を逃すことです。物件の決済日が決まったら、その場で提出期限をカレンダーに書き込んでおいてください。この記事は一般的な手続きの説明であり、個別の税務判断を行うものではありません。詳細は税理士や所轄の税務署にご確認ください。


